
みなさん、こんにちは。アーツカウンシル金沢でディレクターを務めさせていただいております方野公寛です。今回は少々大袈裟ではありますが『創造と革新のフロンティア。デジタル技術が拓く美の可能性』と題し、私が担当するDXや私が関心を寄せているテクノロジーやデジタルについて取り上げさせていただきます。なぜ、ここまで仰々しいタイトルになったのか、その理由は後ほどお伝えさせていただきます。どうぞ最後までお付き合いください。
DXって何!?
私はアーツカウンシル金沢でDXのディレクターとして、務めさせていただいてます。
さて、皆さんはその『DX』についてご存知でしょうか?
中には「聞いたことはあるけどよくわからない」といった方もいらっしゃるかも知れません。と言うことで、まずはじめにDXについて簡単にご説明させていただきます。
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。一般的にDXとは、デジタル技術を使って社会や業務などのあり方を大きく変革することを指しています。私がアートにおいて考えるDXは、単なるIT化や効率化ではなく、デジタルを活用した芸術表現、創作、新たな価値・体験を生み出すことをDXと捉え、先端のテクノロジーやデジタル技術を活かしたアートを皆さんに知っていただいたり、触れていただく機会を創出したいと考えています。また、映像メディア、YouTubeのプラットフォームを活用した動画コンテンツの企画も私の担当の一つです。
それでは、私が興味関心を抱き注目しているデジタル分野やテクノロジーについて、いくつかピックアップし、皆さんにご紹介させていただきます。

メタバース
メタバースはすでに多くの方が耳にし、世間に浸透した言葉ではないでしょうか。
2021年10月28日にFacebookはMeta Platforms(メタプラットフォームズ)に社名変更ししました。この頃からメタバースが世間に広く知れ渡ることになりました。
メタバースとは、「超越」を意味する「メタ (meta)」と「宇宙」を意味する「ユニバース (universe)」を組み合わせた造語で、インターネット上に構築された3次元の仮想空間のことです。アメリカの作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表したたサイバーパンクSF小説「スノウ・クラッシュ」で、仮想の三次元空間を意味する「メタバース」という言葉が登場します。これがメタバースの概念をつくり語源とされています。
世界で5億人もの登録ユーザーを抱え、月間アクティブユーザー数は7000万人以上とも言われているEpic Gamesの「フォートナイト」は、ゲームの枠を超えたメタバースプラットフォームとして広く知られています。Epic Gamesが開発したゲームエンジン「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」は、フォートナイトをはじめとしたゲームや建築、映画制作に採用されており、世界で最も高度な3D制作ツールのひとつといえます。その高機能な開発エンジンが、学生、教育機関、アマチュアデベロッパー、企業に、なんと無料で提供され使用できます。(Unreal Engineで開発したゲームが年間収益が100万ドルを超える場合は有料)

もう一つ広く知られているゲームエンジンが、Unity(ユニティ)です。ゲーム開発を中心に様々な分野で利用される統合開発プラットフォームです。このUnityeも2Dや3DゲームからAR・VR開発まで多くの機能を無料で使用することができます。
Unreal EngineやUnityを活用して、仮想空間のオルタナティブスペースやインタラクティブな何か面白いことをを生み出せないかと思案中です。

3DCG
3DCGとは、Three Dimensional Computer Graphics、つまり3次元コンピュータグラフィックスの略です。3D空間で物体を表現する技術のことです。縦、横に加えて奥行きのある立体的な映像を生成できます。映画、ゲーム、アニメ、建築など様々な分野で活用されています。
無償で提供されているオープンソースソフトウェア「Blender(ブレンダー)」は3Dモデリングやアニメーション、映像制作が可能です。覚えなければならないことは多々あり、習得するには難しさも感じますが、非常に面白い3DCGソフトです。Blenderで作ったデータを3Dプリンターでフィジカルな造形として出力することも可能です。Unreal EngineもUnityもこのBlenderも多くの機能が無料でつけてしまうのですから、驚きますね。

クリエイティブコーディング
ビジュアルアートなどをプログラミング言語を用いて表現することができます。
OpenProcessingは、そのクリエイティブコーディングのプラットフォームの一つで、Web上でp5.js(JavaScriptをベースにしたクリエイティブコーディング用のライブラリ)を用いて、プログラムをオンラインで作成、実行、共有できるプラットフォームです。なんとこちらも無料で利用することができます。
私はJavaScriptにあまり精通しておらずスクリプトを自由自在に書くことはできません。そこで試しにChatGPTをプロンプトを出して、スクリプトを書いてもらいました。すると、いとも簡単にOpenProcessingのコードを書き出しアニメーションを生成することができました。ChatGPTにうまくプロンプト(命令や質問、指示の意)ができれば、意図したグラフィックやアニメーションも生成することが可能でしょう。
OpenProcessingのような新しいプログラミングもあれば、パソコンの黎明期に登場したプログラムも面白いですよ。1980年代に人気のあったBASICで描く、グラフィックやアニメーション、音楽、ゲーム制作も興味深いです。



人工知能 AI
AIとは、人工知能(Artificial Intelligence)の略ですね。私はOpenAIが開発したAIチャットサービス『ChatGPT』やAdobeが開発した画像生成AIサービス『Firefly』を活用しています。
ChatGPTでは、テキストを要約してもらうなど随分と助けられています。短編小説を書くように伝えると私の想像を超える面白い物語だってあっという間に書き上げます。
実はこのコラムのタイトル『創造と革新のフロンティア。デジタル技術が拓く美の可能性』はChatGPTに考えてもらったいくつかの案を組み合わせたものです。そんなわけで随分と大袈裟なタイトルになったわけですね。
Adobe Fireflyは、プロンプトに従って画像やイラストを生成してくれるグラフィックデザイナーなどのクリエイターにとって、非常に便利なサービスです。このコラムのメインイメージは、Fireflyで生成したものです。プロンプトは、「2090年の近未来都市、サイバーパンクな金沢」と指示し生成された画像です。上の2枚の画像もAdobe Fireflyで生成した画像です。上の画像(A)のプロンプトは「コンピュータの基盤を連想させる抽象的なグラフィックス」、(B)は「1950年頃のSF映画に登場しそうな家庭用お手伝いロボット」と指示し生成されました。(A)は概ね想定の範囲内の生成でしたが、(B)の画像は私の予想をよくも悪くも裏切ってくれました。CGっぽさがまるでなく実にリアルで思わず笑えました。この写真に写る風景や人やロボットはまるで現実的で実在しているかのように思えてなりません。恐るべしFireflyの実力ですね。これからもAIを活用した技術は発展し、リアルとフェイクの境界線を曖昧にしていくことでしょう。AIをテーマとした企画も行いたいと思案中です。


モーションキャプチャーを活用したアニメーション
モーションキャプチャとは、人間の動きや動作をカメラで読み取り再現する技術です。私はクレイアニメが好きで、1枚1枚撮影してアニメーションを生み出すストップモーションの技法で作っていたこともありましたが、このAdobe Character Animatorのモーションキャプチャの技術を活用して、クレイアニメなのにアナログではなくデジタルの先端技術でアニメーションを生成し楽しんでいます。アニメーションは、いわゆるデジタル的な無機質な動きではなく、まるで人間のようなゆらぎのあるアニメーションが可能です。モーションキャプチャーで生成したバーチャルキャラクターが動き出す様はとても面白いですよ。いろんな活用や展開が考えられます。


ドローン
無人で遠隔操作または自動操縦によって飛行できる航空機ドローン。最先端のテクノロジーが詰まっています。
実は私は、国家資格「二等無人航空機操縦者技能証明」を取得したドローンパイロットなんですよ。ドローンを用いれば、大空から地上を映し出すことができます。まさに大空を自由に羽ばたく鳥になったよう気分です。私だけが独り占めするのではなく、ドローン空撮の魅力を皆さんにしょうかいしたいなぁ、なんて考えています。
おわりに
今回は、DXディレクターが関心を寄せている、デジタル領域における興味深いトピックやアプリケーションについて、いくつかご紹介させていただきました。テクノロジーが加速度的に進化を続けるいま、私たちの暮らしや創造のあり方にも新たな視点や可能性が次々と立ち現れてきています。ご紹介できたのはほんの一部に過ぎませんが、デジタルと人間の関係性がこれからどう変わっていくのか、想像するだけで胸が高鳴りますね。まだまだお話ししたいこと、触れてみたい事例や思索の種は尽きませんが、また次の機会にゆっくりと。DX担当ならではの企画も思案中です。それではまたお会いしましょう、さようなら。
