制作: 金谷亜祐美
撮影: 中川暁文
金沢市内のあちらこちらに張り出されております、煌びやかでいて…どこか懐かしさを感じるポスター。皆さまも一度は目にしたことがある筈。大きく写し出されておりますのは、白塗りの美女と侍に扮した役者でございます。時代劇?歌舞伎?いえいえ、これこそ大衆演劇!金沢市は森本にあって、北陸唯一の大衆演劇劇場「金沢おぐら座」。ここでは一年通してほぼ休まず公演が行われております。今回はそんな「おぐら座」の代表取締役、鷹箸直樹さんにお話を伺って参りました。
聞き手は劇団アンゲルスの西よしおが務めさせていただきます。
それでは、はじまりまじまり〜!
※この日は西とアーツカウンシル金沢の金谷さん、カメラマンの中川さんでおぐら座にお邪魔しました。先日おぐら座で初めて大衆演劇を観劇した金谷さんが、鷹箸さんに熱い感想をぶつけるところから対談は始まりました。
金谷 職場への道すがら必ずおぐら座のチラシが貼ってある場所があって、しかもそれが毎月変わっているんですよ。
鷹箸 僕が毎月貼りに行ってます(笑)。
金谷 それがきっかけで前々から大衆演劇が気になっていたんですけど、実際見たら…かなりショッキングな体験でした。
鷹箸 はっはっはっは!
金谷 キャバレーの様であったり、おひねりの制度があったり。俳優さんと観客が親密で、江戸時代から続いているスタイルを間近で体験しているんだなぁ…と。それでいてお芝居だけでなく舞踊showもあったり、出演者の中には女子高生がいたりとか、もう情報量が多すぎて(笑)。
鷹箸 どうなってんだ?みたいなね(笑)。あの劇団(*1)の座長さん、初めておぐら座に来た時は14歳くらいでしたよ。
金谷 そうなんですか⁉
あの体験がなかなか消化出来なくて、帰りの車の中でも大衆演劇の世界に心が取り残されたままでした。
鷹箸 はっはっは、そういう熱い感想本当に嬉しいなぁー。
西 森本商店街一座(*2)もすごい注目されていますね。
鷹箸 はい、ありがたいことに昨年はTVでも大きく報道してもらいました。
(*1)2023年12月に公演していた、「劇団雷照」のこと。
(*2)森本商店街一座…衰退していく商店街の再起を掲げ、店主らが役者として活躍する劇団。プロ劇団の指導のもと、半年に一度公演を行っている。劇中にお店の宣伝を交えるなど、個性豊かな作品は毎回爆笑のイベントとして知名度を上げ、大衆演劇ファンを始め多くの方に森本商店街の魅力を伝えている。一見の価値あり!
「社長⁉かっこいい‼」
西 本日はおぐら座の代表、鷹箸直樹というアーティストに焦点を当てて色々お話を聞かせて頂こうと思います。
鷹箸 ねえ聞いた?俺アーティストだって(笑)。
従業員一同 (笑)
西 まずはおぐら座の成り立ちからお聞かせ頂けますか?
鷹箸 親戚に舞踊の家元がいまして、その方がおぐら座の前身的な小さな芝居小屋を運営していたんです。そこは舞踊の稽古場だったんですけど客席と舞台があるから、劇団さんを呼んで大衆演劇の上演もしていたんです。そこのお手伝いを一年程するうちに「社長やらない?」と家元に言われて…
西 なるほど。そこで「これなら劇場としてやっていけるぞ」という勝算のようなものを掴んでいたんですね。
鷹箸 いえ「社長⁉かっこいい!やりたい‼」と思って(笑)。
そもそも大衆演劇って名前を初めて聞いた時は「誰が見るの?」と思っていました。でも実際に観劇したら本当に感動しちゃって!20代は音楽をやっていたんです。だから観客とステージの一体感みたいなものには、経験的に敏感だったんですよ。金谷さんがおっしゃった通りなんですけど「こんなに人と人が繋がるのか…これは多くの人に届けるべきだ!」と思ってたところに、家元からそういう話をいただいて。
西 それから場所を森本に移して「おぐら座」になったんですね。でも新たに劇場を作るとなったら「想い」だけでは実現しませんよね?集客の見込みとかがあったんですか?
鷹箸 なんにも無いですね。本当に勢いだけで。「社長だ社長だー」って(笑)。なんとかなるだろうってのが本音です。ただ、以前の場所はキャパ50人位で駐車場も大きいのが無かったので、団体や観光客をなかなか受け入れることが出来なかったんですよ。
西 観光客?
鷹箸 ご存じの通り金沢って雨が多いじゃないですか。天候に左右されずに三時間楽しめる場所って少ないというので、旅行会社がウチに注目してくれて。金沢ツアーの流れで大衆演劇を見せたいという問い合わせが多くあったんです。そこで、今の場所ならそういうご要望にももっと対応できるだろうという見込みはありました。あとは本当に勢いでしたね。そろばん弾くのは苦手なんで(笑)。
あとは本当にありがたいことに、地域のお客さんが友達を誘って来てくれたりするので。
地域との繋がり
西 先日お邪魔した時、お客さんと劇場の間に一歩踏み込んだ関係性があるように見えました。私は演劇人として「地域と文化活動の繋がり」をもっとおぐら座から学ばなければいけないと思っているんです。
鷹箸 地域との繋がりというのももちろんあるんですけど、その前にみんなが抱えてる心の隙間だったり悩みなりがあるじゃないですか。うちは高齢者のお客さんが殆んどなんで、日常の中に「寂しい」とか「ひとりでテレビ見てても面白くない」とか、そういうニキビみたいに細かい心のしこりを持っている方が多い。それって高齢者にはかなりリアルな問題だと思うんですよ。僕はその人たちの日常がおぐら座になればいいと思ってる。大衆演劇見るなんて非日常じゃないですか。だけどウチに来てるお客さんの殆んどはこれが日常になってる。おぐら座に来て、従業員やお客さんとおしゃべりして観劇して。これもテレビを見るのと同じ日常。でも凄く楽しい日常。
うちのスタッフはお客さんの名前ほぼ全員覚えてるんですよ。「おはよう」とか「ありがとう」も嬉しいけど自分の名前呼ばれるのって存在価値を感じるじゃないですか。おぐら座に来ることによって自分が自分として認識される。それが嬉しくて来てる人もいます。芝居見て終わりじゃなくて、従業員や劇団さんとも仲良くなって家族のようになって、それがお客さんの日常になってゆく。それはおぐら座として力を入れています。だから全国を回ってる劇団さんに「おぐら座は劇場のファンがすごく多い」ってよく言ってもらえるんですよ。
西 劇団経営者としては耳が痛いです。私ももちろんお客さんを大切にしようとは思っていますけど、どうしても収益のことが先に来てしまったり。
鷹箸 もちろん収益も絶対に必要で利益を上げなければやっていけないんですけど、それは副次的なものと捉えていて、みんなが満たされた分だけ利益が上がるっていう順番は見失ってはいけないと思っています。
だから困りごとがあるとウチに来る方もいますよ。よくあるんです、携帯の使い方わからないとか(笑)。すぐ携帯ショップに行こうとするから「いかんでもいいよ!教えてあげるから!」って。
西 はっはっは、おはなしを聞いてると古き良き昭和の街並みが目に浮かびますね。青果店があって鮮魚店があってその並びにおぐら座があってその隣に眼鏡屋があるみたいな。劇場も食料品や眼鏡と同じ「生活に必要なもの」として森本の街に溶け込んでいますね。
大胆な企画!
西 1年間ほぼ休まずに公演が行われていますが、公演って回数が多いほど集客が難しくなりますよね。お客さんをどうやって呼んでいるんだろうと思ってweb上のおぐら座の記事を読み漁っていたら凄い企画を発見してしまって!
鷹箸 あ、もしかしてあれかな?「あの世この世祭り」。
西 はい、ご家族の遺影を持ってきたら割引っていう(笑)。「あの世にも客は居る!」っていうのが突き抜け過ぎてて!
鷹箸 あのイベント、来場者70人くらいだったんですけど、遺影の数が80人。あの世のお客さんで一杯になっちゃったんです(笑)。僕のイメージとしては「生前仲が良かった旦那さんと一緒に観劇する」みたいな感じだったんですけど、犬の写真持ってくる人もいましたね(笑)。でもね、思い出を語ってくれたんです。「これ誰?」って聞くと曾祖父ですとか。それが暖かい空気になって本当にいいイベントでしたよ。
西 常に新規のお客さんを獲得するために戦略を模索しているんだなと、本当に関心してしまいました。
鷹箸 いや、戦略とかってすごい苦手で。とにかく笑えて楽しくて、それで食えたらいいなぁーっていうのがあって。まあ、それは理想ですけどね。
「お客さんって役者さんの人柄までみるんですよ」
西 でも集客って本当に胃が痛くなりますよね。私なんて年に数回の公演の集客を考えるだけで気が重くなります。
鷹箸 それは僕も一緒ですね。
西 休館日以外休まず公演出来ているということは、おぐら座の魅力と大衆演劇の魅力、両方あってのことだと思うんです。鷹箸さんから見て、お客さんをグッと掴んで放さない大衆演劇の魅力ってどの辺りにあると思いますか?
鷹箸 色んな要素が有りますよね。芝居がうまい、踊りがうまい、芸の達者さ…でも一か月同じ場所で公演してるとお客さんって役者さんの人柄まで見るんですよ。
だから、役者がのびのびしてないと、人柄まで含めた魅力ってなかなか舞台上に現れてこない。イライラしてたりやる気がなかったりするとすぐばれちゃう。
西 客席から見たらそういうのすぐわかりますよね。
鷹箸 いい舞台って役者のコンディションに依存するところもあると思うんです。でもそこって実は劇場が関与することが出来るんですよ。だからウチは劇団任せにはしません。たまにあるんですよ、場所貸してるだけで全部劇団任せみたいな劇場が。ウチは荷物の搬入は劇場のチームで全面サポートしますし、劇団と劇場とお客さんの食事会を開いたり、あと毎朝必ず楽屋挨拶に伺う。そんなの当り前じゃないですか?でも劇団さん驚くんですよ、「こんな小屋あんまりないよ」って。僕からしたらその方が驚きで。
芸の魅力だけではなく、一か月という長い公演期間でお客さんが役者の人柄にまでコネクト出来るのも大衆演劇の大きな魅力なんです。だから劇場側が裏でそれを引き出す為のサポートをするのって大切ですよね。
それでいい舞台になればよりお客さんも喜んでくれるし、お客さんの数も増えるし(笑)。
劇団も客層も代替わりの時期
西 大衆演劇界は90年代後半に大きな代替わりの時期があったというのを何かの記事で読みました。それから考えると30年経ってるわけですからまた代替わりの時期ですよね。劇団さんもお客さんも変わって行く時期に鷹箸さんが何か思うところはありますか。
鷹箸 若手の劇団に思うところは沢山ありますよ。そういうのは飲み屋でベテランの役者さんと話し合ったりしてます。「もっと袴踊りちゃんとやらせた方がいいですよ」とか(笑)。
おぐら座始めた時は、ベテランの劇団さんに劇場の有り方とかを毎日の様に怒られたんですけど、今は代替わりして僕の方が「こういうところちゃんとやった方がいいよ」とか言ったりして(笑)。
でも若手の劇団さんには本当に期待してますよ。
西 お客さんの代替わりに関して難しさってあります?
鷹箸 若い方に見てもらうにはどうするかとか、色々ありますね。お客さんの日常にどうやって大衆演劇を折り込んで行くのか…さっき金谷さんが語ってくれた熱い感想、ああいう風に語ってくれる人が増えるのが理想なんです。だって伝わるのは熱じゃないですか。その熱が「初めて大衆演劇を見に行く」という高いハードルを飛び越えさせると思っています。
あとは子供無料DAYを作ったり、祝日は「三世代で来てくれたら三千円で3人入場できます」とか。
西 それ凄く重要だと思います。私も児童館とかに自分の作品を持って行って上演活動してるんですけど、感受性が鋭い年頃から演劇に触れておいて欲しいっていうのは強く思っています。
鷹箸 はい、子供も本当に楽しんで行きますからね。ここを広げていく努力はしていかないといけないと思います。
西 Web上で鷹箸さんの記事を読んだんですけど、小学生劇団を作りたいっていう記事がありましたよね。
鷹箸 そうなんです。既にそこへ向けて動き始めていて、先日劇団さんと小学校を訪問して一緒にお芝居をしたりしました。小学生一座…作りたいですね。あとは「森本の飲み屋のママ一座」も作りたい(笑)。
色んな人と新たな繋がりを生み出して、劇場ってこんなに面白くて入りやすいんだって思って貰える状況を作っていきたいですね。何もせずにいたら衰退していくしかない世界ですから。
西 なるほど…おぐら座が賑わっている訳が少し見えて来た気がします。新たな繋がりやアクションを起こすときって最初の扉を開けるのに一番エネルギー使うじゃないですか。鷹箸さんはそこにエネルギーを使うのを厭わないというか…。
鷹箸 だって「社長かっこいい!」っていうのがありますからね(笑)。
西 恐れ入りました(笑)。
昼12:30〜、夜17:30〜の1日2回、舞台演劇と舞踊ショーを合わせて約3時間、劇団を月替りしながらほぼ毎日公演している。
大人1名1,900円(前売り1,600円)。
TEL 076-255-1455
FAX 076-255-1471
e-mail naoki@oguraza.com