金沢美術工芸大学(KANABI)から最新のトピックをお届けする「KANABIカッティング・エッジ」。第17回となる今回はフランスはナンシーにあるナンシー国立高等美術学校(ENSAD)に留学中の富士原芽依さんより現地の様子をご紹介いただきます。
私は2024年9月から2025年6月まで金沢美術工芸大学と提携を結んでいるナンシー国立高等美術学校(École nationale supérieure d’art et de design de Nancy -以下「ENSAD」という。)に留学しています。このコラムでは現地での生活や大学の様子についてご紹介します。
◯ナンシーについて
ナンシーはフランス東部ロレーヌ地方に位置する都市で、金沢市とは1973年から姉妹都市提携を結んでいます。そのため、両都市には歴史ある街並みや芸術文化が薫る学術都市という共通点だけでなく、傘が手放せないお天気や住む人の雰囲気もどことなく似ています。シンボルはスタニスラス広場であり、市内にはアール・ヌーヴォー様式の建築が点在します。ロレーヌ地方の特産であるミラベルプラムや、映画「アメリ」に登場するベルガモットキャンディ、伝統的なマカロンが有名です。ミラベルプラムは夏の終わりに6週間程度しか生の状態で出回らないため、ジャムやタルトでよく食べられます。普通のプラムよりも酸味が少なく、柔らかい甘さでとても美味しいです。
◯ENSADについて
ENSADはアート・デザイン・コミュニケーションの3つの専攻で構成されており、私はアート専攻で学んでいます。普段油絵を主に制作していますが、表現の幅を広げようと版画や粘土にも取り組んでいます。共用アトリエに個人のスペースが与えられるほか、木工や版画、陶芸など専門のアトリエは曜日ごとに自由に使用をすることができます。
授業は日本と同様に選択式で、実技の授業だけでなく美術史や語学、経済、他大学と共同研究を行うものなど幅広いジャンルを学ぶことができます。年に数回、専攻の壁を越えたワークショップが開催されるほか、日頃から制作に対するディスカッションやプレゼンテーションが行われており、学生同士の交流が非常に活発です。
◯留学のきっかけ
留学と聞くと英語圏を思い浮かべる方が多いでしょう。フランスでは授業も友人との会話も基本的にフランス語で、英語が苦手な人も多いため、言語の壁は高いと感じています。
私がフランス語に初めて触れたのは大学で授業を選択したのがきっかけです。油画専攻では3年次にパリ研修が控えていたことに加えて、高校時代から英語への苦手意識があったことから、ゼロからスタートできるフランス語を選びました。発音、文法、単語……全てが難しく苦戦しましたが、授業内で出会った音楽や作品、言葉の響きの美しさに魅了され留学に興味を持ちました。
しかし私が入学したのは新型コロナウイルスが流行り始めた2020年であり、オンライン授業や外出自粛が続き、パリ研修は延期。海外留学は遠い夢に思えました。
それでも「フランスに行きたい」「留学がしたい」と口に出し続けた結果、大学院進学のタイミングで幸運に恵まれ渡航することができました。
言語や文化の違いに悩む場面もありますが、それ以上に現地の言葉でコミュニケーションがとれることや日々出会う新しい物事への感動は得難い経験です。
◯フランスでの生活
思い出深い出来事は数多くありますが、ヨーロッパでとても重要なクリスマスに焦点をあててご紹介します。12月初旬にはナンシー市最大の祭り「サン・ニコラ」が開催されました。この祭りはサンタクロースの起源とされる、聖人サン・ニコラの命日である12月6日にちなんで行われるものです。ロレーヌ地方の子どもたちは12月5日の夜にサン・ニコラから、そしてクリスマスにはサンタクロースからプレゼントがもらえるそうです。祭りの日は街の中心部でパレードがあり、夜には華やかな花火が打ち上げられます。
12月にはヨーロッパの各地でクリスマスマーケットが開催され、街中がきらびやかな装飾とホットワインの香りで包まれます。ナンシーから少し足を伸ばすと世界中から観光客が訪れるストラスブールや、「ハウルの動く城」のモデルとなった美しい街並みのコルマール、そしてドイツ三大クリスマスマーケットに数えられ世界最大規模を誇るシュトゥットガルトにも訪れることができます。街ごとにマーケットの雰囲気や装飾が大きく異なるため、比較しながら巡るのも楽しいです。
フランスでは日本のお正月のようにクリスマスは家族と過ごすのが一般的です。反対に大晦日には友人たちやパートナーと遅くまで飲んで食べてお喋りを楽しみます。
クリスマスの食卓には七面鳥やフォアグラ、生牡蠣、パンデピス(香辛料を使ったパンのような菓子)、ブッシュドノエルなどご馳走が並びます。私も友人の家族と一緒にフランスでのクリスマスを体験することができました。
◯最後に
言語や文化の違いに直面しながらも、それを乗り越えることで得られた多様な視点や柔軟性は私にとって貴重なものになっています。留学も残すところ半年となりました。ここで得た知識や経験を今後の制作に活かしていきたいです。