インタビュー
2023.05.31

新OPEN「ASTER Gallery」インタビュー:“金沢” “アート”への第三者的まなざし

2022年9月、金沢市問屋町に新しいギャラリーがオープン。作品を引き立たせる白い壁面にシンプルなロゴが光る外観は、都会的な雰囲気が漂う。タッグを組んで運営しているというご兄弟に、話を聞いた。

──お二人はご兄弟と伺っています。アスターギャラリーを運営する上での役割について、教えていただけますか?

日谷潤(以下、潤):啓さんは全体のディレクション、キュレーターとしてのアーティストの選定、年間を通した展覧会のスケジュールが主な役割です。沖縄在住で遠方なので直接店舗に対して手を加えることが難しいですから、僕が実店舗の運営、ウェブサイトの管理、作品の展示、入れ替え、設営など、現場の仕事をやっています。
僕はゼネラルマネージャーで、ディレクターが日乃谷啓、という肩書きです。

日乃谷啓(以下、啓):僕は事前に作家さんからサイズなどの作品の情報をもらって、図面に当てはめて展示計画を立てます。それをベースに、実際置いてみないとわからないところは潤さんに調整してもらってますね。展示のオープニングのタイミングに行って、作家さんとコミュニケーション取ったりイベントを進行したりもします。
これまで潤さんのアパレルの仕事に僕がオンライン販売の手伝いをしたりとか、ビジネス上のヘルプワークとかは20年前くらいからやったことがありましたが、この事業を始めてから本格的に2人で連携を始めました。

──設立の経緯を教えてください。

潤:僕はアパレルにずっと携わってきて、コロナで業界全体が疲弊している中、新しい糸口がないかと探っていました。メタバースやNFTなどデジタルなものがピックアップされる中、現代アートは投資対象になったりとコロナ禍でもトレンドになってきていた。ファッションとアートは昔から親和性の高いものですし、僕がこの2つををぎゅっと寄せたような新しいお店をやりたいとイメージしていたんです。そこで、弟(啓さん)はアーティストとして活動し続けていたのでまず相談したところ、アーティストの選定を彼が行い、僕はそれに対して親和性のあるファッションブランドを当て込んだ新しいお店を、金沢の中心街に作ろうという話になりました。
企画して半年ほど経過した時に、不動産会社の代表で僕の同級生でもある米林さん(*)に計画を話したところ、「じゃあうちの物件を使ってギャラリーをやらないか」という話になり、そこがこの問屋町の場所だったんです。最初は思い描いていた場所と違うしスケールも大きいし、あまりイメージが湧かなかったんですが、啓さんに相談したら「まずはやってみよう」ということなり、現代アートのお店として新しく展開しました。米林さんがオーナーで、僕ら2人との共同運営事業という形です。

啓:こんなスケール感のある場所が日本の、金沢に作れたら違うインパクトが生まれるなという漠然としたイメージがありました。作家さんは東京以外だと例えば福岡、京都、大阪などにアンテナを張っている方が多いですが、金沢は来たことがないという人が多い。そこも魅力だし、KAMUや金沢21世紀美術館があり、現代美術の基盤がすでにできているので、立地的に面白いんじゃないかと。長い目で見てこじんまりとしたスペースでやるよりかは、スケール感のある場所で時代の流れに即した現代アートの何かができる予感がありました。
僕も別のギャラリーでキュレーションを何本かやらせてもらったことがあり、同時代のアーティストの作品や傾向を見るのが趣味になりました。ゼロから自分でやったらどういうことができるのかなと思ったときに、キュレーションに対する興味を拡大し、ギャラリーディレクションを手掛けてみようと、話に乗らせてもらいました。

*ASTERオーナー企業・パシフィックホールディングス株式会社代表取締役/米林正克氏。

──ご自身で意識されている、ギャラリーの特性は?

啓:現代アートを10年ぐらい見ていて、日本の現代アートは縦割りの構造というのが強くあるなと思っています。アカデミズム、工芸、ソーシャル、マーケット、ストリートなど。東京ではそれがセグメントされ、各ギャラリーが各セグメントを扱うことでたくさんのギャラリーが成立している。それに対してうちの場合は、あまりセグメント化せず多面的なギャラリーを作りたいと思っています。一極化せずフラットに扱って、色が付いているようで付いていない、「このギャラリーはこうだね」というのがない方がいいんじゃないかと。
作家の取り扱いについては全国から、また今後は海外も混ぜていきたいし、あくまで作家さんと作品が時代にどう反応して作品を作っているのかという視点で見ているので、地域性などのヒエラルキーは持ち込みたくないですね。よくお客さんやメディアの方に「金沢の作家はいないんですか」と聞かれるんですが、あまりそういう視点は持ってない。
以前の展示で面白かったのは、アカデミズム系とストリート系の作家は普段交わらないのですが、一緒に展示するとコミュニケーションが起きて刺激しあったり、新しい関係性が生まれたりすることです。それは、金沢だからできることでもあると思いました。

2023年1月に行われた展覧会「次風景 Post landscape」トークイベントの様子。

──初めて連絡を取る作家には、どのようにアプローチしているのですか?

啓:僕は世界のアートシーンの中の日本のアートとして見た時、日本人の特殊性をすごく出している人に惹かれます。中国や欧米の、現代アートのグローバルな流れの中で日本人の特異点的なものを持っている作家は、最終的に世界に出て行くだろうなという認識があり、ギャラリストとしてそういう基準で選んでいます。まずはインスタグラムで作品を見て、そのインパクトから直感的に人を見つけていくという感じです。見ている範囲が広いから、直感的だけどその中での情報量はすごく多くて、それに対してヒットする人は少ないのですが、少ないなりにそこから展示のテーマに合わせて選別しています。作家さんへの連絡はいきなりメールからのやりとりなので、返事がない作家さんも多いです。丁寧にやりとりすればわかる人はわかってくれて、その中で付き合っていただける方を見つけながら展示に参加してもらっています。

潤:啓さんがやっていることは、僕がセレクトショップのオーナーをやっていた時にブランドをチョイスしてデザイナーに声をかけ、そのメーカーと取引していくことと同じです。僕が海外に行っていたときも、視点はパリやニューヨークのコレクションが中心で、そのグローバル企業のデザインソースをベースにして日本のドメスティックブランドで生産していくという構造でした
グローバルの中でどういったものが売れているのか、どの国で何が評価されているのかを日本人なりに解釈して国内でブランディングして開発するという。なので僕もイメージがつきやすいし、国内の地域性へのこだわりは全くない。海外に行ったら日本人なのか、中国人なのか韓国人なのか、というセグメントになりますから。

──金沢のアートシーンについてはどう見ていますか?

啓:6年前に金沢で発表をし始めた頃から、ちょくちょくギャラリーは見ています。思うのは、行政のバックアップがあるからやっぱり工芸が強く、質が高いですよね。産業的にも強いし、作家も育ちやすく、ブランドもある。そういうバックアップが現代美術にはないなと。金沢21世紀美術館があったりと、派手には見えるけど、ギャラリーに対してのバックアップや人材を育てることへのパワーゲージは弱そうだなという印象があります。

潤:僕は市内のギャラリーを見たことがないです。自分が「こういうものをやりたい」と思ったときのイメージを他の店を見て得ようとは思わないし、やろうと思ったきっかけも、「ファションと現代アート」という仕組みを作りたかっただけですしね。僕には啓さんがいるから、啓さんがセレクションをして僕はファッションのことを考えれば良い。アート業界やギャラリーの常識は知らなければいけないと思うんですが、そのために他のギャラリーを見る必要性がなかったんです。

啓:顔つなぎのためにも、潤さんはこれから見た方が良いとは思いますけどね笑。でも、僕はそこも面白いと思っていて、ギャラリーにしかないヒエラルキーやモラルがあって、一般の人が見られない環境をギャラリーが作ってしまっている。そうではない見せ方・売り方を、うちでやっていきたいと思います。そこは潤さんが動いて、常識を壊していく。そうすることで、一般の人でも現代アートが買いやすくなるルートが広がるんじゃないのかなと。

──将来的には、どのような展開が考えられますか?

啓:僕はアパレルのクリエイティブとアートをどう扱うかという企画も面白いと思っていて、今度竪町のアパレル店と連携する話も実際出ています。中心街にサテライト的な展示を作りながら問屋町にも誘導する仕組みを作ろうとしている段階です。ジャンルの違うところから人を引っ張ってくるルートを作りたいと考えている点は、潤さんの考えているスタートラインと近いですね。

潤:今やっていることは正直言って全部実験中です。僕自身アパレルの小売をずっとやっているから、ギャラリーというよりはショップという感覚で、販売しているのが当たり前。でもここに作品を買いに来られる方はほとんどいなくて、どちらかというと美術館のような目的の方が多いので、僕の中での違和感が混在しています。そこは啓さんが持っている常識などとすり合わせながら実験している感じです。

啓:あと、オーナーの米林さんとの話によっては、将来的にはギャラリーコレクション、いわゆるコレクションしつつ作家を育てる、そういうスケールで動いてる部分もあります。まだなんとも言えないですが、彼自身はアートコレクターのようなものなので、私設美術館などの話が出てくる可能性もある。それが起点になって作品と作家の価値がマーケットや他の美術館など別の場所に出ていくことも考えられます。単に展示が終わったら作品を全部作家に戻すだけというのではなく、スケール感を生かして常設で売りながら長期的に作家をプロモーションしていくことが重要で、長期的な形でバックアップしながら現代アートシーンを紹介していくスタンスを意識していきたいですね。

(2023年2月、聞き手・編集:金谷亜祐美)

Information
ASTER
多様性を軸に、日本の現代美術界に新たな文脈を創造しうる気鋭の現代美術家を紹介するGalleryとして2022年9月に石川県金沢市にオープン。
10m×13m×2フロアに5スペースを設置、単独Galleryでは北陸最大規模のスペースを活かした展示を継続的に展開していく予定です。
金沢21世紀美術館、KAMU kanazawa等で現代アートで注目される都市金沢に立地、次世代現代 ARTの今を切り取り、[アートを観る]から[アートと暮らす] へ、気軽に現代美術を鑑賞購入出来るGalleryを目指します。
年間を通じて取り扱い作家の常設展示を展開しアートマーケットの多様性を市民に開放します。

※ASTER アスター
星印アスタリスクのギリシャ語語源アスター。
現代における重要性の高いアーティストを取り扱うという意味です。
〒920-0061
石川県金沢市問屋町1丁目99
公式ウェブサイト
Profile
ゼネラルマネージャー
日谷潤(ひのたに・じゅん)
金沢を拠点にアパレルセレクトショップを長年運営。単にファッションを仕入れて販売するのではなく、ブランドの存在意義を定義し、業界の活性化に取り組む。
金沢を拠点にアパレルセレクトショップを長年運営。単にファッションを仕入れて販売するのではなく、ブランドの存在意義を定義し、業界の活性化に取り組む。
Profile
ディレクター
日乃谷啓(ひのたに・けい)
金沢市出身、沖縄県在住。石川県立工業高校工芸科卒業。原型師、プロダクトデザ イナーを経て40代で芸術活動に入り、キュレーションも手掛ける。
金沢市出身、沖縄県在住。石川県立工業高校工芸科卒業。原型師、プロダクトデザ イナーを経て40代で芸術活動に入り、キュレーションも手掛ける。