観光客も地元民もよく往来する広坂通りに、これまで数々の展覧会・アートイベントを受け入れてきたビルがあるのをご存知だろうか。「箔一ビル」と呼ばれるその建物の前には、最近「Museum」の単語が入った看板が立っており、ビルは私設美術館として新たな歴史を紡ぎ始めた。ビルの借主であり「金沢百年ノ森美術館 Kanazawa 100 Mori Museum」を立ち上げた、アーティストの大森慶宣さんに話を聞いた。
アーティストとしての原点を辿る
──大森さんのアーティスト活動ありきの美術館だと思うのですが、ご自身のことをあまり知らないのでそこから掘り下げていきたいなと。大森さんはどのような経緯でアートを始めたのでしょうか。
小さい時から絵が好きだったんですが、学生のときはやりたいことが決まっていなくて、金沢大学の教育学部に入りました。教育に興味があったわけではなかったんですが(笑)、あらゆる科目の授業を受ける中で、美術教育の科目で彫刻の先生に出会ったんです。とても熱く良い先生で、そこでアートと英語を学ぶためにアメリカに交換留学に行くことを決めました。先生は彫刻が専門でしたが、彫刻以外の勉強をして幅を広げてこいと。
イリノイ州にある大学のアート学科で1年間、他にも生徒が10人くらいいる中で制作場所をもらって、4年間通った他の学生よりもたくさん作品を作って個展もしました。その頃、アーティストとして活動していこうと覚悟を決めましたね。アメリカでとにかくチャレンジ精神を学んで情熱を地続きで持ち帰ってきて、幅を広げていろんな素材や技法を使っていったって感じです。


油絵、水彩、一筆描きや針金アート、屏風絵など、いろんな手法で作品を作っています。今は古材を使った椅子作りにはまっています。実家は能登の穴水町なんですが、最近は能登の震災で取り壊される家から救い出された古材も使ってます。美術館にも何点か自作の椅子を置いてます。
日本に戻ってきて大学を卒業してから、すぐにフリーで絵描きの活動を始めました。幸い、リピートして作品を買ってくださる方や、僕のアーティストとして、というより人生そのものを楽しんで応援してくださっている方に出会うこともできました。
──アメリカでアートを学んだ経験が生きているんですね。自分で人脈を切り開きながら活動していくというのは大変そうではありますが、自由で柔軟で、うらやましく思えます。
「ならでは」の魅力
──美術館開館には、どのようなきっかけがあったんですか。
普段県外のギャラリーや美術館は滅多に行かないんですが、2025年の3月に家族で神戸に旅行したとき、兵庫県立美術館に行ったら素晴らしい場所で。神戸の現役のアーティストの作品がたくさん展示してありとても刺激を受けました。なんで金沢には地元の作家の作品を展示するところがないんだろうと思い、自分だけじゃなくて石川県の作家を紹介する美術館を作りたかったんです。「金沢はアートの街」と名乗るのに、そういう特徴の美術館があっても良いだろうと、近隣の美術館の個性として、ないものを補いたいという思いで。


県内のギャラリーにはよく見に行くので、そこで自分が購入した作品をここで展示することで、その作家さんが次の出会いに繋がったらと良いなと思っています。ここに展示してあるものは、相談があれば購入もできます。
アメリカの美術館では、展示室でイーゼルを立てて絵を模写している人がよくいるんですが、それを参考に1階には子どもさんが来たらその場で絵が描ける場所も用意しています。完成した作品はそのまま飾ったりして。「すごい上手!」と褒めると子どもの自己肯定感も上がって、絵に限らず、とにかく自分に自信を持って生きていってもらいたいなと。今まさにここで、コンテンポラリーにアートが生まれる瞬間を作っているんです。


──このビル自体とはどういったご縁があったんですか。
ここは箔一さんという金箔の会社が持ち主なのですが、アーティストとしてコラボする機会があり、僕が社長さんと仲良くさせてもらう中で、ビルの使い道に困っているという話を聞きました。これまでも単発ではアートイベントを行ったりしてきた場所ですが、長期で借りる人がなかなかいないと。そこで、僕がちょうど美術館を持ちたい、さっき言ったように地元の作家を紹介する場所が欲しいと思っていた時期だったので、熱い気持ちをプレゼンさせてもらって(笑)。「いいよ」と言ってもらうことができました。
──一大決心ですね。
そうですね、覚悟です、覚悟(笑)。6月頃にそれが決まって、3ヶ月くらいで壁を塗ったり改修したりして、2025年の9月19日にオープンしました。僕がスタッフとして常に入っていて誰かを雇っているわけではないので、制作する時間も限られるし週末も縛られます(笑)。でも100年続ける気持ちで始めました。今でも雨漏りするところがあったりしますが、そこでコケを育ててみたり…、メンテナンスしながら建物と付き合っています。
僕自身、ホワイトキューブのギャラリーであまり展示したことがないんですよね。嫌いではないんですが、こういう個性のある空間の方が面白い。だから絵も、空間の持ち味を生かして壁と会話してはめ込んでいく感じで。展示する壁面そのものの中でのインスタレーションとして捉えています。ここでしか味わえない展示空間が魅力です。


あと、屋上にも見られるものを作りたいなと屋上の地面にも絵を描きました。初めてあそこからの景色を見たとき「これはいける!」と思いましたね(笑)。金沢の街を一望できる、ここだけで来る価値があるなと。金沢に新しい視点を与えられる、このビル自体がアートです。

軸を持って、変わり続ける
──各階には、コンセプトのようなものもありますね。これは今後変わっていくのでしょうか?
はい。作品の解説を作っていないので、今は来た人が見やすいように、抽象的にでも各階のテーマを伝えるようにしています。これは暫定で、今後は2、3ヶ月に1回くらいずつ企画展をして、個展をしてもらったり作品を入れ替えたりしていきたいですね。

──持ち込みの企画などは受け入れますか。
美大生やアーティストとしてやっていきたい、という人がよく来てくれて相談を受けることがありますが、基本的には断っています。どこか別のところで展示する機会があったら案内をくださいと。それを僕が見に行って気に入ったら買うし、作品が溜まったら展示もします。「百年の森」の「森」は僕の「大森」から来ていますから、僕がいいと思った作品しか置かないつもりで作った美術館なので、そこで何でもいいと言ってしまったらブレるし、納得いってないのに展示してしまうとこの場所のブランドというか、価値が下がってしまうので。
あとはとにかく、たくさんの人に来て欲しいですね。宣伝を頑張りたいです。来た人の満足度は高いので、今は口コミで広がってるかなという感じです。年間パスポートも作ったので、地元の人に愛される美術館になりたいですね。ちょっとずつ展示も変えていくし、企画展もやっていくので、何度も足を運んでもらえる場所にしていきたいです。
──少しでもこの記事が宣伝に貢献できることを願っています。本日はありがとうございました。



(2026年2月取材)
絵画・彫刻・写真・陶芸・立体・音楽など、多様な地元のアーティストを紹介しながら、 身近にアートを感じる小さな美術館として地域住民、県外海外から来る観光客にも親しんでもらえる場を目指す。
金沢市広坂1-2-34箔一ビル
開館:金土日 (11:00-17:00)
入場料:一般1000円、学生800円、未就学児無料
