写真:方野公寛
2025年2月16日、金沢歌劇座・大練習室にて、県内の劇団25団体を含む約80名の演劇人と聴講者が集結。meototo presents「えんげきクロストーク」が開催されました。
劇団の垣根を超えた対話の場として演劇人同士が意見を交わし、交流を深めるこの試みは、大きな成果を収めました。本記事では、このイベントの誕生背景から当日の模様までをご紹介します。
1.つながりを求めて。〜始まりは「meototo」〜
meototoは、脚本家・演出家の西永貴文(Hello wonder主宰)と、演劇×福祉の実践で注目を集める林美里(NiiRU代表)による新ユニット。
2021年、二人は金沢へ移住。しかしコロナ禍の影響もあり、地域の演劇界との接点は少なく、つながりを求める日々が続いたそうです。
そんな中、2024年末に「かなざわ演劇人協会」の茶話会に二人は参加。つながりを求めるのは私達だけではないと知り、一度、石川県の全劇団が集まる必要を感じたとのこと。
石川県の全劇団が集い、歴史や特色、課題を共有する場を設けることで、新たな可能性が生まれるのではないか──。そんな想いのもと、企画をスタートさせました。
アーツカウンシルの共催も決まり、かなざわ演劇人協会の荒川さん、金沢市民芸術村ドラマ工房の東川さんなど、多くの協力者の賛同を得て、県内の劇団に声をかける日々。能登まで足を運び、3時間以上演劇について語り合うこともあったそうです。
スケジュールの都合で参加できない団体もありましたが、最終的に25団体が参加を決定。この時、「演劇を通じて何かが変わるかもしれない」という確信が生まれたとのこと。
イベントは、各劇団の活動報告と、課題について語り合うクロストークの2部構成。一般の方も自由に聴講でき、クロストークにも参加できる、開かれた場となりました。
初めての試みということもあり、会場には少し緊張した空気が漂っていました。しかし、それ以上に、参加者の方々の熱い想いと、これから何が始まるのかという期待感が入り混じっているように感じました。
これから、このイベントに参加してくださった魅力的な劇団の数々や、約80名もの参加者がどんな熱い想いを語り合ったのか、その一部をご紹介していきます。
2.発表セッション
各団体4分間の持ち時間で各劇団の活動報告と、今後の展望を発表していただきました。
①「meototo」
「演劇の魅力を多くの人に届ける」を目的に西永貴文と林美里の二人で結成された演劇ユニット。2025年4月11日(金)~4月13日(日)に、21世紀美術館シアター21にて、旗揚げ公演「ちてん」を上演予定。
②公益財団法人金沢芸術創造財団
美術館や工房・練習施設、ホールなど、金沢の市有文化施設の管理運営を行う団体。誰もが芸術文化に親しみやすい環境を醸成するために、中間支援として相談助言や各種助成金プログラムをはじめ、活動の場や交流会の創出等を行う「アーツカウンシル事業」も行なっている。
③一般社団法人 劇団アンゲルス
1995年創立、演出家・岡井直道が主宰となる劇団。石川の他に海外でも活動する。2025年3月23日(日)14:30に山代スマートパークかがやきITルームにて「晴れ間」・「こびとのつかまえかた」を上演。
④演芸列車「東西本線」
2016年に東川清文と西本浩明によって結成された演劇ユニット。演劇だけに限らず、「演劇×〇〇」をテーマに企画・出演を行っている。2025年3月30日に石川県立図書館だんだん広場にて能登を題材にした朗読劇を上演。
⑤演劇ユニット浪漫好
喜怒哀楽様々な感情をつかさどる「浪漫」を突き詰めて演じる若手の演劇ユニット。2025年7月に21世紀美術館シアター21にて公演予定。
⑥大杉ミュージカルシアター
石川県小松市を拠点に、日本・海外でミュージカルをメインに活動する団体。2024年に創立30周年を迎え、記念公演として、いしかわ舞台芸術祭でトリプル狂言ミュージカル「宝」を上演。また、ミュージカルの教育・製作にも携わっている。
⑦金沢学院大学演劇部
2017年から再興した、金沢学院大学所属の演劇部。様々な形で学生の演劇に触れる機会を創造し、2015年2月9日(日)に泉野図書館オアシスホールにて「喫茶店DE強盗」、2月15日(土)に赤羽ホールにて同作品を上演。
⑧金沢市民芸術劇場(K-CAT)
「無理はしないが、無茶はする」をモットーに、様々なジャンルの演劇に取り組む演劇集団。2009年の旗揚げ公演を皮切りに、公演・ワークショップによって生まれる「人の輪」を通して、金沢の演劇活性化に貢献。次回公演は2026年に予定。
⑨金沢大学劇団らくだ
結成から約74年、総勢61名からなる金沢大学公認サークル。金沢大学や泉野図書館オアシスホールにて年3、4回公演を行っている。2025年3月1日(土)、3月2日(日)に泉野図書館オアシスホールにて春公演「VALOR」を上演。
⑩金沢21世紀美術館
「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に2004年に開設。「開かれた美術館」として、アートの民主化、多声唱和/多様性、未来への志向、相互作用と相互共生などの使命を自覚しながら、多くの芸術との出会いや体験が可能になる場所を目指している。
⑪金沢舞踏館
1976年に山本萌によって設立され、現在白榊ケイとともに野々市を拠点に活動する団体。死と闇を舞台に組み込むことで、逆説的に生と光を作品に生み出していく。2024年11月30日(土)、12月1日(日)に21世紀美術館シアター21にて、「闇夜の子守唄-うつり気飴をなめながら-」を上演。
⑫劇団「さくらんぼ」
昭和47年5月から50年以上続く、石川県初の児童劇団。石川県児童文化協会による、子供たちの文化活動を企画・運営しており、2025年3月2日に上演。
⑬劇団新人類人猿
1986年に金沢市で設立。身体や空間を重視し、セリフとして語られる物語に依存しない独自のスタイルで劇を創る。2024年11月に「街―くずれた日常―」を上演。
⑭劇団nono
2011年11月11日に野々市が市になったことを記念に設立し、同市を中心に幅広い世代が所属する集団。2025年は2月に上演を目標に活動している。
⑮TheaterI-O
5人の若手演劇人によって立ち上げられた劇団。代表の西村優太朗を中心にSNS活動にも力を入れ、産業連関をテーマに「愛」を込めて活動している。2022年に旗揚げ。現在は活動休止中。
⑯タント演劇学校
能美市根上総合文化会館タントを中心に幅広い世代、多様な人たちが参加し楽しい演劇ができる場を作ることを目的に活動を行っている。協調やその人の長所を活かす練習などをレクリエーションに取り入れ、地元での交流などにも取り組んでいる。
⑰チロルマーケット
勢登香理プロデュースによる劇団。2020年に戯曲朗読劇による旗揚げ公演、2024年には手話と朗読劇を融合した公演を開催。2025年には秋季に上演予定。
⑱NiiRU
「私たちは、ここ『にいる』」を基に、生きづらさを抱える人のためになる場所をつくることを目標に、林美里が主宰とする団体。演劇を通した取り組みのほかに、「こころのおりがみ会」といった、こころに寄り添う福祉事業も行っている。
⑲Performance Project -刀衆-
2016年に結成し、独自の世界観を殺陣・芝居・ダンス等のパフォーマンスとして表現するエンターテイメント集団。日本の伝統芸能に現代アレンジをすることで、多くの人に魅力が伝わるパフォーマンスを行っている。
⑳星の劇団
星稜高校演劇部のOB、OGによって構成される演劇集団。自由に劇をやりたいということがきっかけで始まり、現在は星稜高校演劇部とともに劇やチャリティーイベントを開催。次回は秋ごろに開催予定。
㉑Potluck Theater
演出家・島貴之主宰、アーティスト2人で構成される団体。様々な環境・思考をもった人達が集い、同じ時間を共有する演劇の魅力を活かす劇を行っている。令和7年3月1日にはベネックス長崎ブリックスホールにて「ほら吹き男爵」を上演。
㉒RiRiぷろじぇくと
代表・和氣明杜による、石川県の学生主催のプロジェクト。2025年1月に行われた交流会をきっかけに結成、「笑いあえる関係」を大切に演劇を作り上げていく。4月末にプロジェクト説明会、2025年秋ごろ上演予定。
㉓朗読小屋 浅野川倶楽部
金沢市を拠点に日本文学の朗読をはじめとした文化活動を行っている。現在はReading Cafeほたるをプロデュース、4月16日(水)から20日(日)に「朗読で綴る文学の世界」を上演予定。
㉔わらべうたとえんげきの広場はちみつ・能美市の郷土文学を読む会
能美市を中心とし、児童演劇を通してこどもの想像力をひろげることをコンセプトに活動する。朗読演劇と音楽との融合作品を主としており、7月に小松市のシンガーソングライターとのコラボレーションによる劇を上演予定。
㉕金沢21世紀歌劇団
10代の子どもたちで構成されるミュージカル団体。現在保護者で運営を行う。Instagramなどで、随時メンバーを募集している。8月の本公演に向けて練習を行う。
以上、参加した25団体の紹介でした。
映像を効果的に使って視覚的にアピールする劇団もあれば、まるで講談師のように熱い語り口で魅力を伝える劇団も。まさに「十人十色」、あっという間に時間が過ぎていきました。
改めて感じたのは、石川県の演劇シーンの多様性と、その奥深さです。70年以上の歴史を持つ劇団から、生まれたばかりの新しい劇団まで。子どもたちの劇団、若者中心のグループ、そして経験豊かなベテランが活躍する劇団。それぞれの色があり、それぞれの熱い想いを持って活動している。
この日、私たちは「石川には、こんなにもたくさんの魅力的な劇団があるんだ!」と改めて感動し、なんだか誇らしい気持ちになりました。
3.クロストークセッション
残り1時間を切ったところでメインセッションとなる“クロストーク”が行われました。
当日参加者から募集したトークテーマから、4つの議題に絞り込み、それぞれ興味のあるトピックのグループに分かれ、クロストークが始まりました。
トークテーマは以下の4項目。
◆各劇団内のこと
- 稽古場諸問題
- 脚本問題(自分らで書くのか既出のものか)
- 宣伝方法
- 新人の増やし方
- 基礎練習の方法
◆外部との交流について
- 外部団体とのコラボの仕方
- 県外や国外との共同制作の仕方
- 障害の有る方や子供との演劇の仕方など
◆観劇について
- どこで公演の情報を仕入れるか
- どうやって知り合いを誘えばいいか
- 演劇に必要な設備などに触れる機会を得る方
◆キャストについて
- 今までの演劇で一番つらかったこと
- 楽しかったこと
これらの各ブロックについて話し合われた内容を少しご紹介させていただきます。
4.各劇団内のこと「劇団経営のリアル」
「各劇団内のこと」グループでは、劇団を運営する上での課題について、活発な議論が交わされました。
稽古場の確保では、芸術村や長土塀青少年交流センターを利用する団体が多い一方、他に適した場所はないかと意見が飛び交いました。自前の稽古場を持つ団体では、維持管理の悩みも。
脚本の選定では、既存のものをネットで探すか、自作するかが主な選択肢に。自作派の間では、スランプ解消法や構成の練り方についての意見が交わされ、「脚本のワークショップがあればいい」という声も上がりました。
宣伝方法については、SNSの強みと限界が指摘され、地域の公共施設でのチラシ配布など、アナログな手法との組み合わせが有効ではないかと議論されました。
劇団経営は、創作だけでなく環境づくりや宣伝まで、幅広い工夫と知恵が求められると実感する時間となりました。
5.外部との交流について。「コラボで未来を拓く:劇団と次世代の模索」
「外部との交流について」グループでは、演劇界の未来を見据え、劇団関係者が集まり意見交換を行いました。
話題の中心は、児童劇団の存続問題。かつて賑わった子供向け演劇グループだが、メンバー減少により存続が危ぶまれている。現状数名のみが残り、独自の活動継続か、他団体とのコラボかが議論された。
また、大学を超えた連携も議題に。外部との交流を模索する中で、次世代育成の重要性が強調されました。劇団を維持するためには、単独運営だけでなく、多様なグループと関わりを持つことが鍵となります。特に、学生との協働は活性化につながる可能性がある、といった話の流れになりました。
「演劇は公演が目的ではなく、成長の手段」との意見もありました。子供たちや学生が演劇を通じて成長する場をどう作るか。今後の課題として、交流の幅を広げ、持続可能な仕組みを構築することが求められるといった意見交換がなされました。
6.観劇について「演劇チラシの工夫と集客の課題」
「観劇について」グループでは、演劇を観る人々がどのように情報を得ているのかが話し合われました。
SNSや金沢市民芸術村のDMを通じて情報を得る人が多いものの、意外にもDMを受け取っている人は少ないことが判明しました。口コミが観劇の大きなきっかけとなる一方で、公演期間が短いため、口コミが広がる前に終わってしまうという課題もあります。
また、演劇チラシの配布時期についても議論され、金沢21世紀美術館では2ヶ月前から宣伝を始めるのに対し、演劇では1ヶ月前が一般的であることが指摘されました。より早い段階で情報を発信することが必要だという意見が出ました。
さらに、チラシに「自分ごと」と感じさせる要素があると、観客の関心を引きやすいとの声も。デザインや情報量のバランスを考えながら、より多くの人に演劇の魅力を伝える方法が模索されています。
7.キャストについて「演技のアプローチのしかた」
「キャストについて」グループでは、演劇に関わるキャストや演出家が役作りや演技のアプローチについて意見を交換しました。
参加者は、キャラクターの背景を深掘りするためにプロフィールを作成することや、台本を読み込むことでキャラクターを作り上げる重要性について触れました。
役作りにおいては、外部から得られる情報を積極的に取り入れることが大切であると同時に、演技の中で生まれるキャスト同士のやり取りが重要であるという意見が出ました。
また、演出とキャストの関係性についても言及があり、演出の意図を理解しながらも、キャストの意見が作品に与える影響について考えが深まりました。
議論は、演技に対する技術的なアプローチや役者としての成長に向けた意欲を再確認する場となりました。
クロストーク終了の時刻を告げても熱は収まらず、あっという間だった、まだ話したい、といった声が多くあがりました。議題に対しての様々な意見の交流の場になっており、meototoの二人は達成感を感じたそうです。
8.参加した人からは・・・
本イベントに参加した方々に感想を伺ってみました。
「今まで知らなかった劇団の方と話せて、すごく良い機会になった」「色々な考え方を知ることができて面白かった」といった、ポジティブな声がたくさん聞かれました。
一方で、「時間が足りなくて、もっと色々話してみたかった」という声も。

今回の皆さんの声を受けて、次回のイベントでは、もっとじっくりと話し合えるような企画にしたいとmeototoの二人は話していました。
9.さいごに
会場には、若手からベテランまで、幅広い世代の演劇人が集まり、それぞれの想いや考えを語り合いました。イベントが終わった後も、参加者たちの熱気は冷めることなく、交流が続いていたそうです。
「えんげきクロストーク」は、石川の演劇シーンが持つ潜在的な力と、今後の可能性を確信させる場となりました。
参加者たちが示した演劇への情熱、そして相互触発によって生まれる創造性は、石川の演劇を新たな次元へと導く原動力となるでしょう。
今回のクロストークを起点として、石川の演劇シーンがさらに活性化していくことを願っています。
