コラム文化
2026.01.22

レポート|HIROGERU SHIYA「話そう・知ろう アーティスト・イン・スクール」

記事作成:金谷亜祐美
会場写真:方野公寛
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記事作成:金谷亜祐美
会場写真:方野公寛

金沢芸術創造財団では「アーツカウンシル金沢」事業の中で近年、アーティストを小中学校などに派遣して実演を行うアウトリーチ活動「お届けアーツプログラム」に力を入れてきています。2025年度は新たに「Artists in Everywhere」というテーマのもと、パイロット事業として「アーティスト・イン・スクール」(AIS)を実施しています。このたび、その報告会を兼ねたトークイベントが2025年11月9日(日)に金沢アートグミ(金沢市青草町88番地北國銀行武蔵ヶ辻支店3階)にて開催されました。今回の記事では、その内容をレポートします。


第1部 ①ジドレさん・松永みなみさんによる模擬授業

来場者約30名を前に、「お届けアーツプログラム」としてこれまで数々の小学校などで演奏活動を行ってきたジドレさん、松永みなみさんに、実際の授業をどのように進めているのか実演していただきました。

授業は、ピアノの演奏で目線を前に惹きつけつつ、背後からジドレさんが演奏しながら入場し、バイオリンの音色が背後から聴こえてくる演出で始まります。楽器を間近で見たり、音を生で聞くのが初めての子どもたちの気持ちを想像しながら、私たちも演奏に聴き入りました。

楽器の説明や、ジドレさんの母国であるリトアニアの話などを交え、約5曲の演奏がありました。ハイライトは、来場者強制参加(!)のラジオ体操。馴染みのありすぎる曲をプロフェッショナルの生演奏で…不思議な気持ちもありつつ、とてもありがたく貴重な機会です。これはジドレさんが日本で「子供から大人まで誰でも踊れる曲がある」と聞いて驚いたことをきっかけに実施するようになり、学校でも大変好評のプログラムです。


第1部 ②お届けアーツからアーティスト・イン・スクールへ

アーツカウンシル金沢の統括ディレクターである黒澤伸さんが、金沢芸術創造財団が子ども向けに行ってきた事業について、その変遷を辿るトークを行いました。「カナザワキッズアートキャンプ」では、応募のあった子どもたちのグループがオペラやミュージカルなどの舞台芸術やその裏側を通年で体験する事業などを行なっていましたが、コロナ禍を経てそれに代わり始まったのがより多くの子どもたちにリーチできる「お届けアーツプログラム」でした。

お届けアーツプログラムでは伝統芸能、クラシック、クラフト、アートの4種類のジャンルから、小中学校、児童館、保育所等の施設の要望に応える形でアーティストを派遣しています。また、クラシック音楽の演奏者を対象に行う「音楽アウトリーチ講座」についても触れ、アウトリーチ活動へ向けたアーティストの育成について紹介しました。

2024年には初めてアート分野で、小学校に実物の作品を選んで展示し、鑑賞するプログラムを行いました。作品を制作したアーティストもファシリテーターとなり、子どもたちとコミュニケーションを取れる機会を設けたことが非常に好評かつ効果的でした。そこで、もう少し学校生活に入り込んだかたちに発展できないか、ということで「アーティスト・イン・スクール」への取り組みに踏み出すことになりました。

黒澤さんからは、「Artists in Everywhere」というテーマで同時に始まった複数のプロジェクトについて、またその中で今年アーティスト・イン・スクールを行った2ヶ所のうち、カトトモコさんが滞在制作した石川県立いしかわ特別支援学校での様子について説明がありました。

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第1部 ③湯涌小に行ってみた:桜井旭氏によるAISフィードバック

次に、実際にアーティスト・イン・スクール事業でアーティスト(画家)として湯涌小学校・芝原中学校にて10日間滞在制作した桜井旭さんが登壇され、コーディネーターとして事業に関わった筆者(金谷)とともに学校での様子について語りました。

大人でありながら先生でも保護者でもなく、「転校生」として学校に通うアーティストは、朝の会や給食にも参加します。「何すれば良いのかわからない」「どう子どもたちと関われば良いかわからない」といったよそよそしい雰囲気から始まった滞在も、一緒にキャッチボールをしたり、絵を通して会話をしたり、子どもたちとのやりとりの積み重ねの中で距離が縮まり、通うのが楽しみになっていったことが報告から伝わります。

滞在最終日の文化祭では、これまで描いてきたスケッチ、日記、油絵を生徒たちと同じ空間に展示し、見に来た保護者とも交流することができました。子どもたちが自宅で保護者に桜井さんの話をたくさんしてくれていたことがわかり、事業終了後のアンケートでも先生方、子どもたちから心の込もった感想をいただきました。

大学を修了してから学校の現場と関わることになるとは全く思っていなかった、と話す桜井さん。小学校で「教える」立場ではなく「作家」として子どもたちと対等に関われたことに価値を感じた、と語りトークを締めました。

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第2部 ①小林亮太郎さんによる札幌での事例・実績紹介

今回のトークイベントの目玉ゲストの1人が、北海道・札幌で長年AIS事業に携わってきた小林亮太郎さんです。小林さんには以前もこのアーツカウンシル金沢のマガジン記事で取材させていただいたことがありますが、実際の事例を金沢でぜひお話しいただきたいと思いお招きしました。

ロシアやタジキスタンなどで過ごしたユニークな小林さんの経歴に始まり、AISに携わった経緯、その軸となる考え方や枠組み、関係性の変化や地域への広がりなどについてユーモアを交えわかりやすくお話しいただきました。他県には、私たちの「お届けアーツプログラム」のようにアーティストが授業の一コマを担うかたちで学校と関わるアウトリーチは多数ありますが、調べた限りでは滞在型のAISを継続して実施しているのは札幌のみです。AIS駆け出しの私たちが迎えるであろう課題や可能性を共有していただくことができ、とても有意義な内容でした。

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余談ですが、第1部も聞いていただいた小林さんに私たちが今年行なった2件のAIS事業について客観的な評価を伺うと、「どちらも100点満点でしょう!」とのお言葉をいただきました。実現しただけでも達成したようなものなのに、学校側もアーティスト側も、地域も保護者も運営も、誰からも喜びの声をいただけたことは本当に貴重なことで、改めてご協力くださった関係者の皆さまに感謝の気持ちが湧きました。


第2部 ②対談:アーティスト・イン・スクールの可能性とその未来

最後のセッションでは、カトトモコさんのAISを受け入れてくださったいしかわ特別支援学校の校長・杉江哲治さんと小林さん、黒澤さんの3者で対談を行いました。

今回いしかわ特別支援学校でのAISは、杉江校長による多大なるご理解とご協力があってこそ実現したものでした。その真意と今回の事業についての総括をお話しいただいたところ、現在の教育現場の課題感から、AIS事業がどのような効果を生むか、大変具体的かつ刺激的なお話を聞くことができました。小林さんのご経験から発せられる外部視点も相俟って、学校関係者の方にもっとたくさん聞いて欲しかったと心から思う内容でした。今後、学校からAISへ注目度が高まることを期待するとともに、よりアピールし長期的な視点で取り組むべきであると決意を新たにいたしました。

>>>トーク内容をテキストで読む(PDFファイル・約4,000字)<<<


盛りだくさんのトークは、休憩を含め3時間と元々長丁場だったところさらに20分押して盛況のうちに終了しました。来場者には湯涌小学校・芝原中学校の関係者の方、AISに興味を持っていただいているアーティスト、アートファンなどが集まり、終了後もしばらく会場に残り感想や質疑応答をやりとりする時間が続き、充実した時間となりました。

来年度以降も息長くこの取り組みを続け発展させていくために、今後も学校内外の様々な角度からご意見をいただき真摯に向き合っていきたい所存です。今回トークにご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。