インタビュー
2026.01.24

「PING PONG PANG」インタビュー|“なんでもできる”から楽しめる、学生運営のクリエイティブスペース

聞き手・執筆:金谷亜祐美
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聞き手・執筆:金谷亜祐美

夕暮れどき、金沢美術工芸大学と石川県立美術館を横目にきれいに整備された大通りを抜けると、4階建てのアパート1階の一室が明るく照らされているのを見かける。美大生らしい若者の出入りが多いそのスペースは四方を白い壁に囲まれ、オープンな雰囲気だ。2025年の春から始動したPING PONG PANGは、複数の学生が共同で運営するクリエイティブスペース。インタビューにあたり、運営の中心となる「弦」さんをはじめ、「脱輪」さん、「ハッパ」さん、「エデン」さん、「アハン」さんとユニークなあだ名をもつメンバーが集まった。


小立野にひらかれた表現の場

ーこは以前からたまに通りかかるのですが、「何かギャラリーのようなものができたな」と気になっていました。この場所で始まった経緯から教えてください。

弦:
元々、僕たちは芸宿(*)のなかの一部屋を借りていたメンバーなんです。住んでいた訳ではなくて、その部屋を部室というか、会議室みたいに使っていました。制作したり集まって話したり、たまに地域の人と一緒に仕事をしたり。1年くらいそういうことを続けていたら、先輩を通して知り合った不動産屋さんから「こんな場所があるけど使ってみない?」と声がかかって。大家さんに、美大生が何かやる場所にしたいという思いがあったみたいで。

じゃあ次はここでやってみようかという感じで、「ギャラリーをやろう」と決めていたわけではなく、活動の延長線上にこの場所があったという感覚です。

脱輪:
最初からコンセプトが固まっていたわけじゃなくて、場所に合わせて形が決まった感じですね。ここは元々洋服屋さんだったみたいで、ショーウィンドウがあって外にひらけているので、実際に来てみたら「ギャラリーっぽい」と。

弦:
建物自体は、1階が店舗で上が住居という構造です。僕らメンバーは誰も住んでいないですが、大家さんの「美大生に使ってほしい」という思いから上に住んでいるのも今はほとんど美大生。隣の喫茶店や2階にあるリサイクルショップも同じタイミングで始まったので、仲間というか、建物全体で一つの空気感があると思います。

ハッパ:
ここは展示する側としてもやりやすい場所ですしね。学校だと外部の人がほとんど来ないけど、ここだと偶然の出会いがあるから、そこが面白いです。

弦:
金沢美大から歩いて来られるけど、学校の敷地の中ではない。その距離感がすごく大事だと思っています。学校内だと、展示をしても見に来るのはどうしても身内だけになる。でもここだと、喫茶店に来た人や、たまたま通った人がふらっと入ってくる。学生の場所なんだけど、ちゃんと街に開いているんです。

ー私が初めて来たのはクリスマスイベントの時だったんですが、ここはもちろん喫茶店も上のショップもすごく混雑していました。なんだかアーバンな感じというか、金沢美大の移転前とは違った雰囲気を感じます。

ハッパ:
違うように見えるだけで美大生の中身はあまり変わらないかも笑。立地が良いですからね。僕たちは全員3年生で、移転がわかってから入学した世代なんです。1年生の夏まで石引の旧美大でした。

「KODATSUNO Christmas Night」(2025年12月)。近隣の花屋さんの協力で、中央に大きな植物を据え、そこにメンバーやその友人が手作りしたオーナメントを飾った。

ー石引商店街も最近はアートスポットが増えていますが、交流などはあるんですか。

弦:
交流は特にないんですが、石引と小立野でちょっと違う雰囲気を意識しよう、と上のショップの方と喋ったことがあります。レトロでローカル感が魅力なのが石引で、こっちは図書館もあるし、若い人がふらっと遊びにこれるニュータウンのような感じで見せられたら良いなと。

たまに友人や好きな展示を21美の近くのギャラリーに見に行ったりして、方向性として所謂「ギャラリー」を目指したいなと思ったこともあったんですが、やっぱり別の新しい試みとして何かできそうだなと思って。その方がこの坂上(小立野)でやるにはちょうどいいし、一番楽しみ甲斐がある。こういうところも、ちょっとデザイン的な思考かもしれないですね。

ー確かに、立ち位置を俯瞰して街の中のいちスペースとして捉えているところは、デザイン的な感覚ならではですね。「クリエイティブスペース」と名乗っているのも納得です。

脱輪:
便利だしわかりやすい言葉なので「ギャラリー」を使うけど、ギャラリーを運営するための勉強とかはしてないし、単発のイベントも多いのでちょっと抵抗感があります笑。

弦:
作品を見るだけ・買うだけの場所じゃなくて、人が来て、体験して帰ってもらおうという考えがベースにあるからね。

「昆布を食え、昆布を。」(2025年10月)では、実際に北海道の昆布を販売。

*芸宿…2013年衣・食・住・芸をメインコンセプトにオープンした、生活に密接した芸術活動を模索するアートスペース。当時の金沢美術工芸大学の学生が石引の一軒家を拠点に発足し、2018年に現在の小立野のアパート「すみれ台ハウス」に移転。全6部屋がそれぞれレジデンス、アトリエ、ギャラリーなどの機能を持ち、現在も現役の学生が運営・活用している。

“関わる”ことの価値

メンバーのみなさんはどのような関係性なんですか?

弦:
最初からすごく仲が良い人同士で集まったわけじゃなくて、学校ですれ違ったら軽く「よっ」て挨拶するくらい笑。ここにいるメンバーだと、僕と脱輪とアハンがホリスティックデザイン専攻、エデンとハッパくんが工芸科。他にもメンバーはいて、7人くらいでここの家賃を折半しています。

ー立ち上げのとき、中心になったのは弦さんなんですよね。現役のデザイン科学生が運営しているというのは新鮮です。

弦:
キュレーションにそんなに詳しいわけじゃないですが、価値をどう見せるかとか考え方の点で、キュレーションはデザインと似ている気がします。感覚的に、根本はいつも学校でやっていることと変わらないかも。コミュニケーションの仕方は全然違うけど。

こういうフライヤーも自分たちで作っていて実践的にできることも多いんです。作品を展示するだけの人もいるけど、自分たちはそれをどうやって人に伝えるかとか、今は課外学習のような感じで遊んでますね。なんでもできるから。

ー展示のスケジュールなどはどのように決めてるんですか。

脱輪:
ランチの時間に定期的に集まって、今後の予定をまとめてます。メンバーそれぞれに「展示したい」という依頼がくるからそれを共有したり、展示がないからこの辺で1個やろうか、とか決めて。だいたい月一で。

ハッパ:
「やらない」という選択肢はないからね。

弦:
「貸して」という人にそのままホイッと渡すことはなくて、展示するならここをこうした方が良いんじゃないかとか、一応少しコントロールしようとして、めっちゃ話します。それが絶妙に楽しくて。こういう人に来てもらったらいいんじゃないか、とかアドバイスなりできる限りのことをしてますね。やるからにはいい展示にしてほしいんで。単純なレンタルスペースになるのはいやだからね。

旧美大から譲り受けた卓球台をテーブル・本棚としてリユース。「最もコミュニケーションをとりながらできるスポーツ」である卓球が、「PING PONG PANG」の由来。

ー美大生で運営する甲斐がなくなっちゃいますもんね。一方で、工芸目線ではどう関わっているんでしょうか?

エデン:
作ることと同じくらい伝える、見せる努力もしないとダメだなということが、ここに関わってよくわかりました。作品が良ければいいわけじゃなくて、ちゃんとDMを作ったりコミュニケーションをとったりして見せ方を工夫するという感覚を、作品自体を作るときに持ってるか持ってないかで結構変わってくる。

芸宿にいた頃はまだ専攻が決まる前だったし、ここの立ち上げ準備が始まってから同じように成長してこれたので、今はよっぽど意識できてるかも。

ハッパ:
学生時代はただ作っていれば良いのに、卒業したらそれを売らないといけない。急にそんなことはできないし、あまりそういうところを先生は教えてくれないから。

「いい石」(2025年5月)

エデン:
今の時代はSNSがあるから、自分の作品を魅せる方向にお金と時間を使わないと、これからのアーティストは結構大変じゃないかなと。コンペに出すよりもSNSで目に止まったりする方が、名前を売っていくという点では強い。自分の展示があるときは、ピンポンパンのインスタでDMとは違ったアプローチの写真を出したりして、そういうのはやってて楽しいですね。

弦:
しゃかりきに家にこもって作品を作っててもいいけど、それどうすんの?みたいな気持ちもあるし。技術を磨くのは後でもできるから、今は面白い人と会って面白いことを喋った方が絶対いい、と思ってるのは僕もずっと変わらないですね。

エデン:
学校と家の往復の学生生活はもったいないなと。

ーすごく学びになっているんですね。

ハッパ:
後付けじゃない笑?

エデン:
かもわかんないけど笑。

「NEO CHASHITSU」(2025年6-7月)

続けるよりも、増えることへの展望

ー将来的には、どんなスペースになっていきたいですか。

弦:
いち学生なので、作品を売るといったマネタイズや生きるためにギャラリーを運営するというスタンスではなく、今は自由に作品を作るためのスペースだと思っています。そのためにも関係性、関係人口を増やしていくことが大事で、ここを起点にいろんな人と繋がれる場所にしていきたいですね。

脱輪:
卒業するまでは楽しくやりたいよね。手放した後、「借りたいです」という人がいてくれたら続くのかもしれないけど、今は続けようと思ってるわけではない。

ハッパ:
押し付けるのは違うから、やりたい人がいればやってくださいという感じ。

弦:
あと、こういう学生が運営するオープンな場所がもっと増えたら面白くなりそうだなとは思ってます。芸宿の部屋も自分たちが離れた後に1個下の学年が使ってくれたんですけど、アトリエをオープンにして、みんなで使える場所にしたりしていて。今までは、学校から課題を与えられてひたすらこなしていくという流れが強かったけど、そのなかで自分で選べる選択肢があるというのは大きい気がする。

展示がない時でも集まり、制作や試行錯誤の場となっている

脱輪:
後輩の間では、制作を学内で終わらせるのはもったいないという考えの人が増えていて、それは私たちみたいにスペースをやっている人が身近にいるというのもちょっとあるかなと思ってます。デザイン科は割と「やりたい!」という気持ちが強いし、良い流れが作れると良いなと。

ーこの場所自体が長く続くと良いなと思う反面、影響し合って増えていくというのも面白いですね。今日はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

運営メンバー。左上:アハンさん、左下:弦さん、中央:エデンさん、右から2番目:脱輪さん、右:ハッパさん。運営を継続するため、2025年夏にはクラウドファンディングにも挑戦。

(2025年12月取材)

Information
PING PONG PANG
2025年春にオープンした金沢市小立野のアパート1階のギャラリー兼クリエイティブスペース。
〒920-0942
金沢市小立野3丁目28-3
Kanazawa art bldg 1F
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