金沢美術工芸大学(KANABI)から最新のトピックをお届けする「KANABIカッティング・エッジ」。 第3回となる今回は本年4月より新設された映像コース講師の早見先生に寄稿いただきました。
2023年4月から、新たに金沢美術工芸大学大学院修士課程において、「映像コース」がスタートしました。今回のコラムは、この新設された映像コースに関して、お話していきたいと思います。
近年、特別な環境がなくてもスマートフォン等をつかって撮影・編集を行い、気軽にSNSや動画配信サイトへ自作の映像を世界に向けて公開することや、場所に捉われることなくインターネットを通じて世界中の映像作品へアクセスが可能となり、お気に入りの映画や動画を手軽に持ち運べる、作る側にも、観る側にも、映像がより身近で、親しみやすいメディアとなりました。このことは、美術大学の学生にも大きく影響し、「映像」を用いて、表現の幅を広げ、研究する学生が増えてきています。
この度、新設された金沢美術工芸大学の映像コースは、大学院の修士課程のコースの一つになります。日本画コース、油画コースと共に、「修士課程 絵画専攻」の中に属しています。つまり、「絵画専攻 映像コース」となり、絵画と紐づく形で、映像分野を研究する位置付けとなっています。映像を学ぶ上で、絵画をどう捉えるか、また絵画からどのように着想を得て、映像というメディアを扱うのか、美術大学で映像を学ぶことの独自性や、アプローチの仕方を、学生個々の研究の上での強みとし、制作につなげてほしいと願っています。
4月から映像コースに入学した1年生は、3名。それぞれ、物語のある手書きアニメーションの制作や、インタラクティブな映像作品をCG等で制作するなど、個々に多様な研究を始めています。
また、映像コースの1年生では、広く映像文化を学び、映像表現を探究するために、3つのカリキュラムを設けています。1つ目は、アニメーション、映画、ゲーム、メディアアートなどの各分野の映像制作論に加え、映像表現の変遷や映画教育論などの映像学等、それぞれの専門分野を持つ教員、また非常勤講師による、学生の専門に捉われることなく広く映像文化を学ぶための講義『映像論特論』。2つ目は、映像表現の手法の幅を広げるため、フィルムメディアとデジタルメディアの双方から撮影・編集を実践的に学ぶ演習『映像技法演習』。3つ目は、セット撮影・録音・カラーグレーディング・上映の各機能が整うコース教室及び、メディアセンター内スタジオ群を利用した作品制作を通じて、映像表現についての総合的な研究を行う『映像制作(一)』があります。学生個々の作品制作、研究は3つ目のカリキュラムになります。
現校舎では、いくつかのアトリエ兼コース教室の設置にとどまり、叶わなかった設備も、金沢美術工芸大学の引っ越し後、10月から使用される新校舎に新しくできるセクション「メディアセンター」において、学生は誰でも使用することのできる撮影スタジオや編集、録音スタジオ等の各種スタジオ、また映像を最適な環境で上映することのできるシアター等、映像を扱うことに特化した設備やサポートが充実します。また、コース内の教室も、映像を扱う為の設計となり、小型のスタジオ等も設置されることから、より学生自身の研究を支える環境へ移っていきます。
私自身、この金沢美術工芸大学の油画専攻の出身で、“専攻は油画だけれど映像”による表現を研究してきた中のひとりです。当時、映像を扱うための専攻内での設備は、とても充実しているとは言い難いものでした。しかしながら、そんな中でも、多くの先輩方や同期が、社会において、映像の分野でとても広く活躍されています。それは、たくましく研究を続けてきた先輩方の歩みと、専門性にとらわれず、学生の研究のニーズに少しでも沿う形で設備を整え、サポートしてきた専攻としての努力の結果だと思っています。
今年から大きく変わり「映像コース」はスタートライン立ちました。先輩方から後輩へ、この大きくなったバトンをどのように繋いでいくことができるのか、やりがいと共にバトンの重さに緊張も感じています。