コラム
2023.07.07

KANABIカッティング・エッジ 第2回──新名称に変わった、インダストリアルデザイン専攻とは?|安島諭

金沢美術工芸大学(KANABI)から最新のトピックをお届けする「KANABIカッティング・エッジ」。 第2回となる今回はインダストリアルデザイン専攻、安島先生より寄稿いただきました。


 金沢美術工芸大学インダストリアルデザイン専攻は今年度より、以前の「製品デザイン専攻」から英語呼称に合わせた新しい名称へと変更し、より強化されたカリキュラムとなって新年度をスタートしました。「インダストリアルデザイン」は生活に関わるモノやモノを通した体験や仕組みをデザインするなど社会の中で重要な役割を担っています。卒業生の進路として自動車や家電、家具、日用品、IT、コンサルティングなど、プロダクトからソフトウェア、企画など幅広くものづくりに携わる分野に進んでいます。金沢美術工芸大学のWebサイトにある「KANABI ARCHIVE」(https://www.kanazawa-bidai.ac.jp/gallery/)では、卒業生がデザインした様々な製品を見ることができます。皆さんが普段使っている製品や、よくご存知の製品もあることに、きっと驚かれることでしょう。

 金沢美術工芸大学のインダストリアルデザイン専攻の源流は1955年に産業美術学科工業意匠が新設されたのが始まりです。当時の学長であった森田亀之助氏が産業美術は新しい職種であるとし、「美術家が修得したものの上に、さらに産業に結びつく技術と科学的教養が必要になる」との見解を示しました。その当初から現在に至るまで「産業と社会の進化発展に寄与する人材を輩出する」ことを役割としています。

 インダストリアルデザイン専攻の理念やカリキュラムは、バウハウスやその直系であるウルム造形大学を手本として、本学に教授として着任したインダストリアルデザイナーの柳宗理氏が導入したものが基盤となっています。材料を直接手で触れて経験する、自らモデルを作り実験をおこない、工房で実際化する、という柳氏のプロセスは現在も教育の中心に据えられており、そこから生まれた本学のモットー「手で考え、心でつくる」は、頭の中だけで答えを出すのではなく、身体性を伴った創造のプロセスと人間的な感情を伴う創作姿勢の大切さを表しています。柳宗理氏の作品やデザイン哲学は尾張町にある「柳宗理記念デザイン研究所」(https://www.kanazawa-bidai.ac.jp/yanagi/)でご覧になることができます。

 インダストリアルデザイン専攻の各学年のカリキュラムはハードワークではありますが、確実な力をつけるための訓練の積み上げとなっています。1年生では基礎課題を通して表現力、アイデア発想力を育み、様々な素材の特性と加工技術を学びながら基礎造形力を身につけ、2年生では機能、コンセプト、プロトタイピング、製造法などの切り口からインダストリアルデザインの要素・手法を学ぶ演習を行います。3年生では、調査・分析・企画・試作・検証まで一貫したプロセスと未来洞察によるビジョン設計を通してインダストリアルデザインのプロセスを実践するとともに、産学連携などにより実務能力を高め社会性を身につけ、最終年次の4年生は社会課題や公共性をテーマとした演習を行い、これまでの専門演習を結集して卒業制作に取り組みます。

2023年度卒業制作 『METRO POD 次世代型スマートシティにおける新たな交通機関の在り方』 木下 航輔

2023年度卒業制作 『tsukumo 地場産業を利用した「食育」を助ける給食食器の提案』 篝 佑伽

2023年度卒業制作 『和紙を用いた軽く頑丈な低座椅子 -甲虫の鞘翅構造の応用-』 松野 修誠

 4年間の試行錯誤とも言える授業課題を通じて、自ら問題を発見し解決するという自律したデザイナーとしての行動様式とスキルを身につけ、社会へ旅立っていきます。学生によってはさらなる探求を求めて大学院に進むものもいれば、自身の可能性を広げるために海外へ旅立つ者もいます。卒業生たちは、それぞれの道で実務や研究の中で、それまでの学びを反芻し、また新たな学びを得て、社会にとってなくてはならない存在に成長していくことでしょう。

Profile
金沢美術工芸大学教授
安島諭(やすしま・さとし)
1965年石川県生まれ。デザイン事務所、企業のインハウスデザイナーを経て、パートナーと自身の事務所THINGS設立。プロダクト、インテリア、インタラクティブメディア、モーショングラフィックスをはじめ、企業との先行開発に携わり、社会やビジネスの視点からデザイン戦略・デザインマネジメントを行ってきた。現在金沢美術工芸大学教授。2013年よりプロトタイピングを中心としたデザインプロセスの授業を担当。German Design Award(独・2012)、Design+賞(独・2011)、グッドデザイン賞/中小企業庁長官賞(2010)などがある。
1965年石川県生まれ。デザイン事務所、企業のインハウスデザイナーを経て、パートナーと自身の事務所THINGS設立。プロダクト、インテリア、インタラクティブメディア、モーショングラフィックスをはじめ、企業との先行開発に携わり、社会やビジネスの視点からデザイン戦略・デザインマネジメントを行ってきた。現在金沢美術工芸大学教授。2013年よりプロトタイピングを中心としたデザインプロセスの授業を担当。German Design Award(独・2012)、Design+賞(独・2011)、グッドデザイン賞/中小企業庁長官賞(2010)などがある。