コラム
2023.06.16

KANABIカッティング・エッジ 第1回──新しい時代のデザインをめざして|西本耕喜

金沢美術工芸大学(KANABI)から最新のトピックをお届けする「KANABIカッティング・エッジ」。 第1回の今回は新専攻 Holistic Design専攻の准教授を務められる西本先生に寄稿いただきました。


 この春、金沢美術工芸大学のデザイン科は、新たな体制でスタートしました。これまでの視覚デザイン専攻、製品デザイン専攻、環境デザイン専攻の3専攻体制から、Holistic Design(ホリスティックデザイン専攻)定員40名とIndustrial Design(インダストリアルデザイン専攻)定員20名の2専攻体制となりました。

 今回は、「新しい時代のデザインをめざして」と題しまして、新専攻Holistic Design(ホリスティックデザイン専攻)を紹介させて頂きます。

 Holisticは全体的、包括的、総合的といった意味です。ギリシャ語のホロス(全体)に由来し、「部分を積み重ねても全体にはならない、全体は部分の総和以上のものだからである」という考え方を意味します。変化が早く複雑で、予測が困難な現代。デザインの領域は広がり、デザイナーの役割も多様に広がっています。急速なテクノロジーの発展、気候変動、社会的不平等といった世界規模の問題への挑戦も避けられません。この時代、これからの時代に向けてHolistic Designが目指すのは、多様なデザインスキルを基礎に「全体的な視点を持った創造力」の育成です。異なる専門領域を行き来し、自ら課題を探し出す力。新たな価値を発見し、より良い未来を構想する力を育みます。

 広告、パッケージ、本、映像、ゲーム、商品開発、ファッション、ブランディング、空間、景観、建築。コミュニケーションから場のデザインまで「11のデザイン」を軸に、デザインの世界を広く捉え、そこから自分自身の得意な領域を見つけ探求するカリキュラムを組んでいます。みんなでデザインの基礎を学んだあと、自分自身の興味や志向に沿ってデザイン演習を選べる選択制を採用しました。

 1年次は描出、色彩、素材、形態、情報、発想といったデザインの基礎を総合的に学び、2年次には選択式の演習が加わり様々な専門領域の基礎を実践的に学びます。3年次は、異なる領域の演習を縦断的または横断的に選択し、デザインの応用を学びながら得意分野を形成します。例えば、空間、景観、建築と関連性が高い領域の演習を縦断的に選択して自身の専門性を広げたり、ゲーム、商品開発、ファッションと個々の領域の演習を横断的に選択しながら独自のテーマを模索したりすることができます。4年次は、4年間の集大成として卒業制作に取り組みます。自身のテーマに向き合い、課題を抽出し社会に発信します。研究室に分かれて担当教員のもと卒業制作を行いますが、 学生が求めれば他の教員の指導も受けられます。

 研究室共同で産学連携プロジェクトを行ったり、連携授業を行ったりすることもあります。11の研究室がつながり柔軟に連携するしなやかな教育研究の場がここにあります。それは、学生の好奇心を刺激し主体的な学びを促したり、連携から思ってもみなかった発見やブレイクスルーがニョキっと生えたりするデザインの森と言えるでしょう。

 今年10月に移転オープンする新キャンパスは、より開かれた環境で、学生と教員の距離もさらに近くなりますので、新たな教育研究体制にフィットし、様々な相乗効果が生まれることを期待しています。多様な制作や発表、実験に対応するスペースの充実も魅力です。学年ごとにホームベースとなる教室があるほか、社会連携や産学連携による実践的なデザインプロジェクトのための「プロジェクトルーム1」、映像や光、音を用いた制作や発表の場となる「プロジェクトルーム2・3」、木材加工や塗装作業、大型の制作が可能で、実寸で空間を設えるなど実験的なデザイン検証の場となる「ラボ1〜3」と、これらはHolistic Design専用スペースとして存分に活用できます。

教室に付属したテラス
デザイン検証の場「ラボ1」

 このように新たな体制で第1期生を迎え、新キャンパスへの移転を控えておりますが、さて現在の学生は何を制作し、どのようなキャンパスライフを送っているのでしょうか。本専攻のフェイスブックで定期的に紹介して行きたいと思いますが、7月15,16日には現キャンパスにて対面でのオープンキャンパスが開催されます。体験授業や作品展示、入試合格作品など、たくさんのコンテンツを準備中です。ぜひ、新たなスタートを切ったデザイン科 Holistic Design、デザインの森を訪れてください。

 新しい時代のデザインを探しに行きましょう。

Profile
金沢美術工芸大学准教授
西本耕喜(にしもと・こうき)
1981年北海道生まれ。金沢美術工芸大学准教授(ホリスティックデザイン専攻 / 環境デザイン専攻)。2020年より本学にて建築と都市を専門に、デザイン演習などの科目を担当。その他、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」として奥能登国際芸術祭に参加。近作に「北見の家」(共同設計者:山本周建築設計事務所+小林栄範)がある。
1981年北海道生まれ。金沢美術工芸大学准教授(ホリスティックデザイン専攻 / 環境デザイン専攻)。2020年より本学にて建築と都市を専門に、デザイン演習などの科目を担当。その他、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」として奥能登国際芸術祭に参加。近作に「北見の家」(共同設計者:山本周建築設計事務所+小林栄範)がある。