タイビエンナーレ(*1)の第3回目「Thailand Biennale 2023 Chiang Rai」が、北部のチェンライ県にて、2023年12月9日から2024年4月30日まで開催されている。私たち(*2)は2月の北陸を離れ、平均気温31℃のこの土地へ赴いた。「国の北端で行われる芸術祭」という観点で筆者は奥能登国際芸術祭のことを考えざるを得ず、実際2023年秋に開催され記憶が新しいこともあり、金沢で、奥能登国際芸術祭を身近に感じる身としてレポートできることと思う。
この記事では、3回に分けて旅を記録する。タイビエンナーレだけでなく、チェンライという地域性やアート面での盛り上がりについても記していきたく、タイトルを「タイビエンナーレとその周辺」とした。2回目となる今回は、丸2日間かけて県内を移動しながら鑑賞した作品の中から、筆者の目に留まったものをいくつかピックアップして紹介する。なお鑑賞はすべて無料。また膨大な作品量から、全てを見ることはかなわなかったことを断っておく。
*1 正式名称は「Thailand Biennale 2023 Chiang Rai」。この記事では、略称として「タイビエンナーレ」を使用する。
*2 筆者と、休暇中の金沢芸術創造財団スタッフ。
Day1/3:チェンライという場所
Day3/3:チェンライを彩るアーティストたち
チェンライ国際美術館(CIAM)
チェンライに到着して最初に訪れたアートスポットは、空港から車で10分ほどのところにあるチェンライ国際美術館(CIAM)だ。この美術館はこの芸術祭のメイン展示スペースとして、今回正式オープンを迎えた場所だという。周りを田んぼに囲まれた白黒2つの塔が特徴的で、10名以上のアーティストの作品を展示しており、太陽光を燦々と取り込めるガラス張りのサンルームもあれば映像作品などを集中して見せられる屋内も十分にあり、幅のある展示を実現できそうであった。
また、屋外にも竹で編まれた建造物、作品のために作られたかのような3連の波型屋根を有したホール、田んぼを掘り進めるように設置されている作品など、既存の景色や土地に対して自由度の高いアプローチが見られた。
メーファールアン芸術文化公園
早朝にチェンライに到着したのだが、前の夜は飛行機の中でゆっくり眠れず、そのまま1日芸術祭を回ったためかなり疲弊していた。その日の最後に訪れたこのメーファールアン芸術文化公園は、市街地からほんの車で10分ほど走った場所にも関わらず自然豊かで22ヘクタールもの広大な土地が広がっている。公園内を歩いて移動するのは骨が折れたが、点在して設置されている作品はどれも見所があり、休み休みゆっくりと移動し、鑑賞した。どこからか聞こえてくる民族音楽やヒヨヒヨと聞き慣れない鳥の声をBGMにしながら、図らずも「来てよかった…」と声が漏れる癒しの時間となった。
屋外立体作品、サウンドインスタレーション、また博物館の中の大半のスペースを使った平面作品などが展示されており、全9名の作家による充実した作品群であった。
チャン倉庫
市街地から1時間以上車を走らせ、メコン川付近、国境近くのチェンライ北部におけるメインの展示となるのが、このチャン倉庫。8名の作家を紹介しており、隣国と行われてきた争いや薬物の交易などの政治的営為を背景としたシリアスな作品が多かった。
バーンマエマ小学校
2日間の最後に訪れたのが、金沢21世紀美術館でも取り上げられたことのあるアピチャッポン・ウィーラセタクンの個展会場となっているバーンマエマ小学校である。1階建ての木造建造物であるこの小学校はすでに使われていないが、扉に席順や時間割のようなプリントが貼られており学校の気配を残している。2007年に閉校して以降、現在は度々カルチャーセンターのように瞑想活動などに使用されているとのこと。カラフルでかわいらしい建物は、3つのセクションに分けられていた。
最後に
インパクトのある見た目や物量・情報量で見せる平面・立体作品で強く印象に残るものももちろんあったが、一方で映像作品の精度が高く、数も多かった(一部、紹介を省いている)。社会を風刺するメッセージを伝えようとするものは映像とともに字幕を掲載し切実な問題を考えさせる一方で、言語を使用せずビジュアルイメージのみをダイレクトに伝えることでその緊急性や闇深さを感じさせるものもあった。総じて、時代の発展とともにすり潰されそうになる歴史や風俗を風化させないことの重要性、現代を生きる我々はそれらを「過去のこと」とせず、その延長線上にある社会問題に直面しているということを意識させる、真摯な作品群であった。
運営面では、会場前に待機するアテンドスタッフから来場者に作品について説明しようとする熱意を感じ、好感が持てた。直前まで他のことをしていても、私たちを見つけるとすぐにこちらに来て出身地を聞き出し挨拶してくれる。英語力および英語の発音に個々人で差があったが、外国人に対しても作品について語彙を駆使して伝えようとしてくれた。また、どの会場でも一通り説明を終えると私たちの姿を写真に撮っても良いか聞かれ、撮影された。誰が来たか、お客さんの層や人数、アテンドスタッフ自身の仕事ぶりを把握するためでもあるだろうか。断る人も多いかもしれないが、思い出にも残るし面白いシステムだった。
また決まった住所を持たない場所を使用することも多く、さらに広範囲に作品が点在するこういった芸術祭では、ますますGoogleMAPアプリとの連携が必要になってくる。その操作性や利便性、情報量は奥能登国際芸術祭の方が上回っているものの、自力でのタクシー・徒歩移動が主な我々にとってはウェブサイトから会場が細かくマッピングされたマップがダウンロードできるだけでも非常にありがたかった。
先進都市ではない、その土地の独自の民俗性が残る地域での芸術祭では、地元の観光名所を回り宗教的ルーツや食生活、地元民が身近に課題としている社会問題に出会いながら、関連するテーマを取り扱う作品を鑑賞することができる。短期間ではあったが、文化的・社会的・民俗的「土壌」と、個人の思想とその発露としての「最先端(芸術)」を行ったり来たりし咀嚼していく芸術祭の良さを、全身に浴び続け2日間を過ごした。
Day1/3:チェンライという場所
Day3/3:チェンライを彩るアーティストたち
〈参考〉
タイランド・ビエンナーレ2023チェンライ公式ウェブサイト
https://www.thailandbiennale.org/
タイ国政府観光庁ウェブサイト
https://www.thailandtravel.or.jp/
Tokyo Art Beat 記事「『タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023』レポート。タイ最北端の地で、神話や霊と戯れながら世界の扉を開く」
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/thailand-biennale-chiang-rai-2023-report-202401