文化インタビュー
2024.06.26

「ニューネスト」インタビュー|三者三様の感性が生むギャラリーショップの新形態

取材:金谷亜祐美
制作協力:上岡安里
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取材:金谷亜祐美
制作協力:上岡安里

金沢・片町スクランブル交差点から新竪町方面へ進む途中のマンション1F部分に青いランプのお店があるのをご存知だろうか。もともとは紳士服店があったその場所に、この春新しくギャラリーがオープンした。骨董や古道具、現代美術作品など様々なものが店内に並んでいる。今回はこのお店「ニューネスト」の中心人物、本川潤さんと吉澤潤さんのW潤さんにお話を伺った。

片町の通りに面した明るい店内には、美大生の作品から骨董品、盆栽、石も。インテリアにまつわる様々な品が揃う。

──ニューネストはギャラリー「ソシ」を運営する本川さん、セレクトショップ店主の吉澤さん、古道具屋「日々響」さんの3人で始めたとお聞きしました。その経緯やコンセプトを教えてください。

吉澤:コンセプトはがっちり決め過ぎずに、少し実験的に行っています。各々やりたいこと、できることなども今後変わって来ると思うので、ちょっと余白を残した感じでスタートしました。

本川:ニューネストは「新しい巣、住処すみか」という意味なので、置いてあるものも小さなオブジェや生活で使える物など、作家メインのものを取り扱っています。買っていってくれた人の”新しい部屋の在り方”の提案ができたら良いなと考えています。

吉澤:もともと、この場所には「nest」という洋服屋さんがありました。この3人で行うプロジェクトのグループLINEを作る際に、グループ名を「ニューネスト(仮)」とつけていて、それぞれ何ができるのか考え、潤君はギャラリーをやっているので、常設で作家さんの作品を取り扱えるな、とか日々響さんは古道具で、とか。僕もこれまでセレクトを行ってきたので集められるなと。そういうものを持ち寄るなら、「ニューネスト」でいいんじゃないか、「ニューネスト」がぴったりなんじゃないかという話になりました。

本川:そうやって、ふわっとしてふわっと始まった感じです。この場所が使えるという話は2023年末くらいからあって、日々響さんが不動産業にも関わっていて、洋服屋のnestさんから「もうここをでるから、このままここで何かをやらないか?」と相談がありました。それで、日々響さんから僕らに「あそこの場所を使えるんだけど、どう?」という話があって。以前に、僕が主催の古物市で、日々響さんに出店していただいた際にすごく仲良くなり、それもあって「なにか面白いことをしませんか」と声をかけてくれたのかなと思っています。

2023年6月、金沢市尾張町にある石黒ビルの地下スペースにて、本川氏が主催した「金沢古物市」の様子。古物を扱う10店舗と飲食店鋪も出店。平日昼間に開催したにも関わらず、数百人が集まった。

本川:「ここで何しようかな」と思ったとき、やっぱり自分ができることの範疇でちゃんとやりたいのと、まだ誰も手をつけていないところを攻めたいという思いがありました。こういうギャラリーショップもありますが、金沢には九谷焼など伝統工芸を扱うショップが多いです。一応地元の作家を扱うようにはしているのですが、僕が好きな作家で、なるべく金沢で繋がった方の作品を販売していきたいという思いがあります。もちろん地元の人にも、県外の人も来て欲しくて…まだ全然ですが、じわじわやっていきたいですね。

──現代美術過ぎず暮らしに寄っていて、骨董の雰囲気もあり、同じ空間で組み合わせることが難しいのではと思ったのですが割と調和しているのは、3人がすごく良いバランスだからなんだろうなと思いました。

吉澤:確かに、こういう組み合わせで見せる所はあんまりないかもしれないです。現代アートならギャラリー的な見せ方になるか、古道具やインテリアに寄ったもの、工芸に寄ったものなど分かれていますよね。

本川:でもやってみたら、古道具も作家物も根本は一緒なのかなと思います。古道具はテクノロジーが入っていなくて、手作業で作るものだから、それが新しいか古いかというだけの違いで。僕は、手でつくることが一番で、自分やその人が死んでから受け継がれることができるものだと思います。テクノロジーは電気が止まったら一瞬で終わるので、それで捨てられてしまったらさみしいですよね。

吉澤:僕が実店舗でセレクトショップをやっていた頃は、割と古いものと新しいものを混ぜてやっていました。古いものはどちらかというと海外のものが中心だったのですが、コロナになってから身近な所にも目がいって日本のものも面白いことに気づき、興味の範囲が広がりました。なので、今は割と日本のものも多く取り扱っています。それぞれで持ち寄ったものを混ぜて、店内でコラージュしていますね。

──ミックスではなく、「コラージュ」と言うのは面白いですね。割合はみなさん同じくらいの量を持ってきているのですか。

本川:僕のものが今は多いかもしれないです。僕は制御できなくて、とりあえず詰め込んで怒られたらマイナスしていこうと思って。怒られるまで置くと思います(笑)。

ここにあるものは、作家さんの自宅に残っている作品を持ってきてもらっているケースが多いです。作家さんには「倉庫としてこの場所を使ってください。僕が頑張って売るから。」というような言い方をしています。今のところは、無理にこの場所に合わせて作るのではなく、「とりあえず今残っているものを販売させてください」と。残っているものが悪いものという見方は全くなく、それは単にニーズが合わなかったというだけだと思っているので、そういうものを置いています。

吉澤:作家さんもギャラリーで展覧会がある時は作品を多く見せられますが、それが終わると見せる場所がなかったりします。せせらぎ通りでセレクトショップをやっていた頃、観光客に「地元の作家の作品を買いたいんだけど、どこに行ったら良いですか」と時々聞かれました。そう言われると、展覧会などは案内できますが、常設で見られるところは少ないなと感じました。そういう場所があれば、観光客の人にも良いのかなと思っています。

──確かに九谷焼が欲しいというのではなく、地元作家の作品を見たいという需要がたまにありますよね。

吉澤:また、僕は今別でやっているプロジェクトがあって。小松に鬼瓦を専門で作る屋根瓦職人さんがいて、その方と去年から瓦をモチーフにした「GAWARA」というプロダクトブランドを立ち上げました。なので、瓦関係のアイテムを結構置いています。元々は去年の新幹線の延伸に伴って小松駅がリニューアルされ、そこになにか土産物を置けないかという話からプロジェクトが始まりました。

これは商品開発から関わって箸置きやバッチがあるのですが、地震のチャリティーとしても販売していて、金沢21世紀美術館のミュージアムショップにも置かせていただいています。最初は土産物としてスタートしたのですが、ちょうど地震があり能登の黒瓦を何か別の方法で残していけないかと思い、向き合い方が少し変わってきました。

「GAWARA」シリーズから、松と瓦の箸置き。吉澤氏が運営するオンラインショップで購入可能。

──瓦業界は打撃もありつつ、修復の需要もかなりありそうですね。他にも吉澤さんセレクトのものはありますか?

本川:吉澤さんは石好きじゃないですか。

吉澤:そうなんです。真ん中の棚にある石は「水石すいせき」と言って盆栽などと一緒で、石を景色として見立てて飾る文化が昔からあり、ここ1〜2年くらいで興味を持ち始めました。発祥は中国で南北朝時代からあり、盆栽のように床の間飾りが文化として受け継がれてきています。今、水石をやっているのはおじいちゃん達ばかりで、そういう文化があること自体あまり知られていないです。

去年盆栽のプロジェクトとして、鬼瓦職人と盆栽師と僕の3人で、瓦の鉢に盆栽を植え込むというのを何回かやりました。その流れで盆栽と一緒に小さい石を対で飾ってみる、というのがあって「そんな石の飾り方があるなんて!」と思い、そこからいろいろ調べ始めたのがきっかけです。

山水画と一緒で雄大な景色がここに収められていて、盆栽や石、または石だけでどう感じるか…山や崖、滝に見立てられたりしてますね。

──吉澤さんはバックグラウンドや歴史があるものに惹かれるのですね。金沢のアートシーンで今注目していることなどありますか。

吉澤:アートでもインテリア的なことで言っても、逆にセレクトショップをやっていた頃から世の中がこうだからというのをあんまり気にしないようにしていました。どちらかというと自分が興味を持つものを主軸にしていたので、水石とかもそうですが、知らなかったことを知るのが結構好きで、一回「面白いな」と思うとそこに行くようにしています。

瓦もそうで、近くにたまたま鬼瓦を専門で作っている職人がいたから「そんな職業があるのか」と衝撃を受けて、その人から色々専門的なことを教えてもらい「ツヤツヤの鬼瓦は金沢や能登だけのもので」とか、そういう知識をもらいました。それまでは瓦の屋根はあまり好きではなくて、生まれた時から見ている景色だから新しさがなく、そこまでいいと思っていなかったのですが、180度見方が変わって「すごく面白いじゃん」と、そこから色々一緒にやるようになりました。世の中がこうだからそれに対してこうというよりかは、たまたま自分の環境の中で出会った人や物を面白がってやっている感じですね。

ニューネストとしてはすごくニュートラルに、あまり色をつけずにそれぞれの持ち味が共存していくようなイメージになっていくといいなと思います。

──お話を聞いていて、まだカラーついていない余白の部分に様々な可能性があるなと思いました。本日はお話しありがとうございました。

本川氏が運営するソシと連携して、ニューネストで音楽イベントを行うことも。

(2024年5月取材)

Information
ニューネスト
石川県金沢市池田町3-47
OPEN 12:00-18:00
火曜定休
Instagram
Profile
本川潤(ほんかわ・じゅん)
富山県生まれ。作品を見ながら、会話を楽しめ、実際に展示している作者に来ていただくことで作者から直接想いを聞ける。作者も、観客から直接思いを聞ける空間。会話が生まれることで、作品を見て終わり、展示をして終わりではなく、次につながる閃きから発展するためのきっかけの空間。そんな空間を目指し、2021年にギャラリー&バー「ソシ」をオープン。
富山県生まれ。作品を見ながら、会話を楽しめ、実際に展示している作者に来ていただくことで作者から直接想いを聞ける。作者も、観客から直接思いを聞ける空間。会話が生まれることで、作品を見て終わり、展示をして終わりではなく、次につながる閃きから発展するためのきっかけの空間。そんな空間を目指し、2021年にギャラリー&バー「ソシ」をオープン。
Profile
吉澤潤(よしざわ・じゅん)
小松市出身。ライフスタイルにまつわる様々なものを独自の視点でセレクトするオンラインストア「WHOLE.」を運営しながら、2024年3月からニューネストの共同ディレクターとなる。DJとして他店でのイベントにも出演多数。
小松市出身。ライフスタイルにまつわる様々なものを独自の視点でセレクトするオンラインストア「WHOLE.」を運営しながら、2024年3月からニューネストの共同ディレクターとなる。DJとして他店でのイベントにも出演多数。