インタビュー
2023.09.25

ギャラリー「ソシ」インタビュー:アート界を夢中で奔走する八面六臂のディレクター

片町から幸町の交差点に向かう広い道路を歩いていると、深夜でもひっきりなしに人が出入りする、ビニールカーテンに包まれた不思議なギャラリーに目を奪われる。2023年10月に2年を迎えるというこのギャラリー&バー「ソシ」を1人で運営する、本川潤氏を訪ねた。

──これまでの活動について教えてください。

僕は富山の高岡市出身で、専門学校で金沢に来て8年くらい経ちます。服飾系の学校で、元々古着屋をしたいと思ってビジネス科に入ったんですが、1週間に1回だけあった洋服を作る授業がめちゃくちゃ楽しくて、こっちの方が好きだなと。1年生の2学期に学院長のところに行って、「作る科(デザイン科)に行きたいです」と申告してなんとか転科しました。1年遅れでも一番作る手が早くて、2年時はがっつり服のことを学びましたね。

元々自分の所属外で何かしたいという思いが強くて、19才の頃、とりあえず洋服好きの人たちをつなげたくて、ハロウィンイベントのようなことをやりました。自分が富山ですごく孤立してた経験があったので、共有できる場所を作りたかったんです。

3年生になってからはもっと外に外にという意識で、就職を目指してニューヨークに行きました。学校は海外で就職できるような伝手がなかったので自分でやるしかないと探っていたら、ちょうどメトロポリタン美術館でコムデギャルソンの展示をしてたんです。作った洋服が溜まってきていたので、「ここしかない!」と思いその展示に向けて1週間分お金を貯めて、行って、美術館に通って、名刺を配って。空いた時間にタイムズスクエアで「この洋服を着て歩いてくれませんか」とプラカードを書いて、街中のトイレで着替えさせたりして笑。英語は全く喋れないですが、誰も僕のこと知らないので何も気にすることはなかったです。でも、1週間じゃ無理でしたね。

セレクトショップで勤めていた頃に開催したファッションショー
本川氏が20歳の頃に作った服

──すごい行動派ですね!

負けず嫌いで、頭良い奴らに勝とうと思ったらこれしかないなと。面白かったし勉強になったし、「人と同じようなことしてたらダメだな」と、帰ってきたときには意識が変わってました。日本に20何年間生きてて、常識的な親に育てられてきた僕が、新しいことを生めるのかな?と疑問に思い、「ちょっと下に嫌われることをしてみよう」と基本全てを否定するみたいなすごく尖った時期もありました。自分の正直なところと別のことをしちゃったので疲れたし、単純に友達がいなくなって笑。でも発見もあって、面白い人や、ちゃんと物事を考えて同じように尖ってる人と繋がることができました。

卒業したら、石川で何かしたい、金沢を盛り上げたいという気持ちが強くて。東京も考えましたが、本気でやるなら場所は関係ないんじゃないかなと。その後縁あってセレクトショップに勤めて、店長、バイヤーをやったり、会社の中でブランドを立ち上げたりして、辞めて今に至ります。

──アートが面白いなと思ったきっかけや出会いはありますか?

元々興味はあったんですが、洋服を作ってた頃から特に好きになりました。僕は他のブランドのデザインを参考にすることはせず、一方で「外へ外へ」の時期にすごくアートが面白いなと。絵を見たり作家さんの話を聞いたりすると、「この感覚、わかる」「こういうことをあまり人と話してこなかったけど、すごく共感できる」と思うことがあって。自分はこういうことがしたいのかもしれないな、と思いましたね。

その頃、ギャラリーに対して「もうちょっとこうしたら良いんじゃないか」と思った部分が、接客が堅苦しくて、作品も見づらかったところです。自分の感性で作品そのものから「あぁこうなんだ」という解釈はできるんですが、作家がいないことが多いので「どういう人が作ってるんだろう」というのが僕は一番気になって。それが伝わるような状況が起こるギャラリーはないかなと。もっとアートをラフにみられる方がいいんじゃないか、アートってそういうものなんじゃないかなと思ったんです。割と遊び心で作る人も多いのに、それを堅苦しく見るのは見づらいし、単純にもうちょっと楽しみたいなと。

あとは、作家さんなど何か作っている人のコミュニティスペースを作りたいなと思いました。夜バーをしてる理由はそこにあって、作家さんが飲みに来る可能性があって、飲みながら「ぶっちゃけこの作品さ〜」とゆるく本心の話が聞けたりするような。

僕自身、このお店は単なるきっかけだと思ってます。「お店をやりたい」がゴールじゃなくて、何かしたいと思ったときにインスピレーションやアイデアを得られるよう、デザイナーさんや作家さんから直接話を聞きたいと思って自分のために開いた店なんです。だから店名も、電気回路図の導線があって、回路に指示を出してる機械を「素子」と言いますよね。導線を人に例えて、うちを通して誰かの夢に繋がるきっかけになれば良いなと。

2022年11月、シルクスクリーンアート集団HEDONIZM展の様子。

──確かに、夜のバーや飲食と結びついていることで、よりコミュニケーションを取れる場になっていますよね。

割とみんな本音でしゃべりますしね。うちのお客さんは哲学的な人が多くて、飲んで暴れるような人は全然いない。もしいたら作品に害が出ちゃいますけど、今のところないです。

飲食とギャラリーは一緒にやると作品の価値を下げる場合があります。カフェ&バーって、ラフすぎて。作品が数万以下なら売れることはあるんですけど、10万前後のものは売れなくなってくるので、そこのバランスはすごく悩みました。だから席の配置を工夫して、昼、見せるときは見せる、夜は飲食に重点を置く。僕がちゃんとそう見せるために活動することが大事だと思っています。

夜のバーの様子。作家はもちろんその知り合いや、食事のファンが集う場になっている。

フードも普通のやり方では出してなくて、それもあっていいお客さんが来てくれます。うちはミシュランで星をとるようなお店に料理を頼んで、真空パックされたものを特別に卸してもらってるんです。僕はそれを切るか、湯煎して出すだけ。このやり方だと、仕込みをしなくていいし、設備への初期投資が軽く済みます。

これは僕の師匠が考えて、繋げてくれた感じです。その人も洋服のデザイナーで、学生の頃からの相談相手で、ギャラリーを始めるときも相談に乗ってくれて出資してくれました。そんな感じでお店ができて、この10月で2年になりますね。

──これまでの展示は、外部の企画ではなく、全てご自身での企画展ですよね。

そうですね。地元の作家さんは全然発表してなくて、県外ばかりで。最初の展示では春画をしたんですよ笑。たまたま師匠の友達が東京の浮世絵専門の画廊さんと繋げてくれて。その人のコレクション展もしたし、さらに知り合いのガラス作家や改造スピーカーの展示など。僕自身、それまでアーティストと繋がりがあるかというとほぼなくて、始めてみたものの「これからどうなっていくんだろう」と思ってました笑。今でも打ち合わせをたくさんするんですが、すぐ展示してくれる作家さんが見つかるわけではない。県外の作家さんにはリモートで「こういう場所です」とプレゼンしたり、僕なりにプランを提案させてもらったりしています。

お店のイメージ、ブランディングも意識して、今後も場所代をとることは今後もしたくないです。僕から+αでできることもあって、そこで利益を出せる仕組みを考えたり。色々相談し合いたいんです。だからただお金を払ってもらって「自由に飾ってください」というのは無理ですね。かといって作家さんをたくさん知ってるわけじゃないから、毎回がむしゃらでギリギリです笑。

2023年7月の新保裕展の様子。最近、地元の作家の展覧会も開催するように。

──今後やりたいことや、興味のあることはありますか。

「新しいものを作りたい」という欲がすごくあって、今は空間づくりに一番興味があります。さらに広げて、今年に入ってから街おこしのようなことをやりたいと思うようになりました。お店が1年過ぎたあたりから余裕が出てきて、やっぱり外で活動したいなと。イベントの企画も僕は作品だと思ってるので、僕なりのやり方で作家活動をやってるつもりです。根本的に僕は「人」がすごく好きで、「この人どんなこと考えてるのかな」ということに興味があって、それで最近作品としてインスタレーションを作っています。

今年の6月に石黒ビルで「古物市」というイベントを企画、開催しました。3部屋あるうち、一つを飲食スペース、真ん中を古物市、一番奥にインスタレーションを置いたんです。

「知恵」をテーマに開催した古物市の告知チラシ。

そのイベントをやろうと思ったのは、街おこしとして「人をたくさん呼べるイベントはしたくない」と思ったことがきっかけです。市内でたくさん青空市が開催されていますが、人が多すぎるせいで出展者側もこなしてるだけになって、仕込みも「こんなに作らんなんの、やだわ」という声を耳にし、それはどうなのかなと。飲食店は与える側として、何かを与えて感動してもらう職業であるべきじゃないですか。それがどんどんできなくなってきている。

「古物市」はわざと平日、飲食関係者の休日に多い水曜日に開催して入場料をとりました。さらにインスタレーションという違和感を持たせて、帰ったあと「あれはなんだったんだろう」と思わせることがすごく大事でした。接客業の人に影響を与えたら、次の日お客さんと話す内容が変わってくるかもしれない。そういう循環が生まれたら、やっと街おこしになるんじゃないかと思ったんです。街おこしというのは一瞬ではできなくて、僕が住んでる間にできたら奇跡。「次の世代にどう伝えてもらうか」というイベントをしないとダメで、人がバーっと来て、バーっと見てもらうだけじゃ伝わらない。

インスタレーションは、古物市で流れる音楽を視覚化させるという内容でした。目に見えない意識とか言葉、記憶などから自分はできていて、形になってる。作品としては今、そういうところに興味があります。

「古物市」でのインスタレーション。隣の部屋で流れる音楽をギターアンプから流し、その上に水を張って動く様子をプロジェクタに映すことで、音を視覚化させた。

──今、企画中のイベントについて教えてください。

次は古物市のようなことを氷見のコシダスーパーという古いスーパーの跡地でやる予定で、色々考え中です。富山のお店も呼びたいし、近くのホテルと連携しても面白いなと、歩いて行ける距離でイベントを興すことを計画しています。間に商店街もあって、獅子舞もやってるらしくて笑。せっかく氷見でやるなら氷見らしさも掴んでもらいたいですね。氷見は昼は盛り上がりがありますが、夜はあまり元気がなくて。今回たまたま氷見ですが、僕自身富山出身なので、なんとかしたいなと思っています。「街おこし」というフレーズはそもそもあまり好きじゃないんですが、それが一番適切かなと笑。企画はほとんど1人でやっているので、考えることがたくさんあって大変です。でも、楽しいですね。

(2023年8月、聞き手・編集:金谷亜祐美)

Information
ギャラリーソシ
石川県金沢市鱗町114-1
GALLERY 12:00-18:00
BAR 20:00-3:00
木曜日定休日
Instagram
Profile
本川潤
(ほんかわ・じゅん)富山県生まれ。作品を見ながら、会話を楽しめ、実際に展示している作者に来ていただくことで作者から直接想いを聞ける。作者も、観客から直接思いを聞ける空間。会話が生まれることで、作品を見て終わり、展示をして終わりではなく、次につながる閃きから発展するためのきっかけの空間。そんな空間を目指し、2021年にギャラリー&バー「ソシ」をオープン。
(ほんかわ・じゅん)富山県生まれ。作品を見ながら、会話を楽しめ、実際に展示している作者に来ていただくことで作者から直接想いを聞ける。作者も、観客から直接思いを聞ける空間。会話が生まれることで、作品を見て終わり、展示をして終わりではなく、次につながる閃きから発展するためのきっかけの空間。そんな空間を目指し、2021年にギャラリー&バー「ソシ」をオープン。