インタビュー
2023.08.21

やり尽くされている世界の中で——ストーリーを紡ぐ脚本家|西永貴文

取材・文/西川李央
インタビュー会場協力:金石町家(仮称)
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取材・文/西川李央
インタビュー会場協力:金石町家(仮称)

アメリカの精神科医、エリック・バーンが提唱した「人生脚本」という心理学理論があります。その理論によると、人は親や周囲の人間とのコミュニケーションを通じて得た潜在意識によって、無意識のうちに人生という脚本を描き、それに沿って歩いているというのです。もし自分の人生であるにもかかわらず、既に脚本ができているというのであれば、なかなかその物語を変えるということは難しいのかもしれません。

アートやエンターテイメントの世界では、物語を自由自在に操る脚本家という職業が存在します。世の中にある映画、ドラマ、舞台などの多くは脚本家がシナリオを書き、作品に大きく影響する部分を担うのです。

脚本家という言葉はよく聞きますが、実際どのような職業なのでしょうか。今回は金沢在住の脚本家・西永貴文(にしなが たかふみ)さんに自身の仕事について伺いました。

現在は金沢にお住まいの西永さんですが、元々は東京でお仕事をされていたんですよね?脚本家になるきっかけは何だったのでしょうか。

私は生まれが金沢で、2021年まで東京を拠点に活動していました。コロナをきっかけに、拠点を変えても仕事はできると改めて思ったので、地元に戻ってきたんです。

この業界は最初、役者として芝居の世界に入ったんです。
元々大学の頃から映画が好きで、そこから派生して映画に出てみたいと思うようになりました。地元のタレント養成所のオーディションを受けてレッスンに通い、20歳前後の頃「金沢泉鏡花フェスティバル」で初舞台を踏んだんです。それをきっかけに地元の劇団に誘ってもらって、何度か舞台に立たせてもらっていました。

そんな中、たまたま東京である舞台を見た時に衝撃を受けて。「金沢の人にもこんな舞台を観て欲しい!」って若いながらも思ってしまったんです。でも、金沢でこんな舞台はやっていないし、どうしたらいいんだろう?と思ったときに「あ、自分で書けばいいんだ」と。それが脚本家としてのスタートでした。

インタビュー会場協力:金石町家(仮称)
衝撃を受けたのは何という作品でしたか?

劇団「大人計画」で宮藤官九郎さんが作・演出を担当した「ニッキー・イズ・セックスハンター」という作品でした。

まだ若かった当時の僕には刺激が強すぎるほどトリッキーで、グロくて、タブーばかりの光景が舞台上で繰り広げられていくんです。でもそれがちゃんと物語として成立していて、そしてちゃんとおもしろくて。
お芝居って何やってもいいんだって教えてもらったような体験でした。

ご自身で一番最初に脚本を書いてみていかがでしたか?

脚本といっても、最初は自分で一から書けるわけもなかったんで、伊藤潤二さんというホラー漫画家さんの作品をお芝居として成り立つように台本を作ったんです。それを「猫☆魂」という劇団の旗揚げ公演で行いました。

それから何度か公演を行っていると、若い人たちが新しいことを始めたというので界隈では少し注目されることも出てきたんです。
でも、なんだか自分がぬるいなと感じるようになってしまって。注目はされていても、クオリティがあまりにも伴っていないんですよ。だからこのまま金沢にいてもダメだと思って、大学卒業後は東京に行こうと決めたんです。

やはり芝居をやるなら東京にいかなきゃ、と?

そうですね。やっぱり環境が全然違うんですよ。東京では毎週末映画館で映画を観るくらいの感覚で「今日はあの劇場へいこう」、「明日はこの劇団の公演があるんだ」ってフラッと舞台を観に行けるんです。

上京しても、僕はまだ脚本家として活動していたわけではなくて、演者としての技術を磨こうとしていました。俳優基礎学校に通いながら、ひたすら小劇場で舞台を観ました。それからナイロン100℃という劇団のオーディションに受かって準劇団員のような感じに。当時は何千人という規模の舞台にも出させてもらいました。
その後、その同期たちと共に、金沢で立ち上げた劇団「猫☆魂」を再スタートさせたんです。そこからですね、本格的に脚本家として活動し始めたのは。

では最初は基本的に舞台の脚本家として活動していたということですよね。映画やドラマなど活動の幅を広げるきっかけになったのはどういうことだったんでしょうか。

再結成してから4回目の公演で行った「アンラッキー・デイズ〜ナツメの妄想〜」という作品が、たまたま劇場に来ていた堤幸彦監督の目に留まって、なんとドラマ化を提案してくださったんです。それがフジテレビの深夜帯に堤監督が演出、僕が原作・脚本で放送されて。それが初めてのドラマの脚本でした。

「アンラッキー・デイズ 〜ナツメの妄想〜」2004年/OFF・OFFシアター(下北沢)

主演が嵐の櫻井翔さんだったこともあって観ていた人も多かったのか、その放送があった次の公演から動員が物凄く増えたことを覚えています。再結成からたった4回しか公演をしていない劇団だったんですけど。しかも、大好きだった宮藤官九郎さん脚本のドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の監督が自分の作品をドラマ化したいって言ってくれたことが、本当に夢のようで。自信にもなりましたし、それ以降様々な活動をしていく土台となるようなターニングポイントだったと思います。

そもそも、脚本家というのは物語を考えたり、台本を作ったりする仕事かと思うのですが、具体的にどこまでが脚本家の手中になるのですか?

それは作品や監督、演出家によって作り方が全然違います。例えば、一番直近で僕が脚本を担当した映画「僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。」(以下「僕ラー」)については、プロットと呼ばれる大枠の設定が監督の中にあって、富山県射水市をテーマに、こんな高校生が主人公で、なんとなくこういった筋書きにしたい、などある程度の設定まではできていました。

そこからシーンごとにざっくりとしたものを書いて監督とすり合わせをしてから、実際のセリフやト書きを書いていきます。ト書きというのは小説の地の文と違って、登場人物の心情は描かず端的な動きや目に見えるものだけを書きます。人物の内面については考えながら脚本を書いていたとしても監督や演者が表現する部分かなと思うので、作品の中では脚本家の手からは離れたところにあるように思いますね。

西永さんは、「猫☆魂」の舞台では脚本だけでなく演出も担当されるわけですが、そういった時の脚本と、依頼されて書く脚本とで違いはありますか?

ドラマや映画など商業的なお仕事に関しては、例えば原作があったり、監督やプロデューサーの中で「こういうものがやりたい」という考えがあったりするものがほどんどです。なので、その筋書きをどう膨らませていくのか、というところが脚本家の仕事なんだと思います。小説では描かれていなかったものを、映画として作るときにどういう要素が必要なのか。自分自身の中で新たな設定やバックボーンを作ったりすることもあって、そういった作業が緻密で大変です。

一方、「好きに書いてもいいですよ」という時もあります。それこそ自身の劇団の脚本はそういった部類に入ると思いますが、何をその舞台で訴えたいのか、何を描きたいのかというテーマをピックアップするまでにすごく時間がかかります。“おりてくる”とかよく言うんですけど、そこに行くまでが長い。それに出会ってしまえば、もうガッと書けてしまうんですけどね。

インタビュー会場協力:金石町家(仮称)

そう考えると、自分はクリエイターとアーティスト、どちらの要素も持ち合わせた脚本家なのかもしれません。どっちの仕事も楽しくて、どっちの仕事も苦しいんです。

作品づくりでは何からインスピレーションを受けることが多いですか?

圧倒的に他の作品ですね。だからこそ、とにかくいろんな演劇や舞台の作品を観ています。お芝居というのは、もうやり尽くされている世界だと自分は思うんです。その中の数多(あまた)ある設定と設定の組み合わせによって物語というものはできてるんじゃないですかね。

こういう仕事であれば、作品を観るという経験が少しでも多いほど、それは自分の身になると思います。作品を生み出す時に参考になるのは、最近の鑑賞経験からだけではありません。ものすごく昔に観た、「そういえばこういう作品あったな」という小さなひとネタから自分の作品が出来上がることもあるんです。

映画「僕ラー」は富山を舞台にした作品ですが、北陸出身者としてこの映画に携わって、思うことはありましたか?

金沢に戻ってきてから書いた初めての作品で、それが北陸を舞台にした映画だったことは感慨深かったです。射水の方々に映画を通してご自身の町を見てもらえたことも良かったなと思います。

映画「僕ラー(:僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。)」より

金沢の人に「こんな舞台を観て欲しい」という想いで脚本を始めたこともあり、僕自身金沢のエンターテイメントを盛り上げたいという気持ちが強いんです。今進行中のプロジェクトがあるので、「僕ラー」のように金沢でもこの町を舞台にした作品なんかも今後届けられたらなと思います。

進行中のプロジェクトとは?

実は、金沢で「Hello wonder」というエンターテイメントのプロデュースチームを立ち上げたんです。舞台、音楽、アート、映像などジャンルの垣根を超えたメンバーで、演劇作品を作ります。9月7日から9月10日までの旗揚げ公演が決定しています。今後いろんなことに挑戦していきたいと思うので、まずは今回の作品を多くの方に観ていただきたいです。


誰しも人生に脚本があるのだとしたら、西永さんの人生には脚本を書くための脚本があったのでしょうか。

一度金沢で自分を「ぬるい」と感じ、上京を決意した西永さんですが、今再び戻ってきたこの町で、エンターテイメントシーンの切り込み隊長として、返り咲く日は近いのかもしれません。

西永さんが書く新たな舞台の脚本と、これから歩んでいく人生の脚本は、金沢のエンタメに一石を投じる大きな存在になるはずです。

インタビュー会場協力:金石町家(仮称)

(インタビュー:2023年6月/取材・文/西川李央)

Hello wonder 1st produce『美しい人たち』

2023年9月7日(木)〜9月10日(日)
金沢市民芸術村PIT2・ドラマ工房

Hello wonderとは石川県のエンタメを盛り上げるために動き出したプロデュースチームです。
演劇、音楽、アート、映像などジャンルの垣根を超えたメンバーが集い、
演劇の間口を広げていくような、ボーダーレスな活動を目指します。
また、『メイド・イン・石川』を掲げ、石川にゆかりのある人と、
『石川を代表するような舞台作品』をゼロから創作します。
第一回目となる本作はフルキャストオーディションで選ばれたキャスト、スタッフと共に、
三本のオムニバス作品を創り上げ、今までにない新しい作品を上演いたします。
Profile
脚本・演出家
西永貴文
石川県金沢市出身。アンドリーム所属。2002年に劇団猫☆魂、2012年に空飛ぶ猫☆魂を旗揚げし、全作品の脚本・演出を担当。劇団公演の舞台『アンラッキー・デイズ~ナツメの妄想~』が映画監督・堤幸彦の演出により、CX『劇団演技者。(’04)』にてドラマ化(主演:櫻井翔)。【TV】EX『下北サンデーズ(’06)』一部脚本。【舞台】『炎の蜃気楼』シリーズ脚本。【舞台】『サイコメトラーEIJI~時計仕掛けのリンゴ~(’14)』 脚本・演出。【イベント】モーニング娘’20石田亜佑美BD一人芝居、脚本・演出。【TV】BS松竹東急4月期月曜ドラマ『半熟ファミリア』脚本。【映画】『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』脚本。【マンガ】『闇に咲く花』の原作を執筆。
石川県金沢市出身。アンドリーム所属。2002年に劇団猫☆魂、2012年に空飛ぶ猫☆魂を旗揚げし、全作品の脚本・演出を担当。劇団公演の舞台『アンラッキー・デイズ~ナツメの妄想~』が映画監督・堤幸彦の演出により、CX『劇団演技者。(’04)』にてドラマ化(主演:櫻井翔)。【TV】EX『下北サンデーズ(’06)』一部脚本。【舞台】『炎の蜃気楼』シリーズ脚本。【舞台】『サイコメトラーEIJI~時計仕掛けのリンゴ~(’14)』 脚本・演出。【イベント】モーニング娘’20石田亜佑美BD一人芝居、脚本・演出。【TV】BS松竹東急4月期月曜ドラマ『半熟ファミリア』脚本。【映画】『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』脚本。【マンガ】『闇に咲く花』の原作を執筆。