コラム社会
2023.10.19

KANABIカッティング・エッジ 第6回──金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」について|坂東凜汰朗

金沢美術工芸大学(KANABI)から最新のトピックをお届けする「KANABIカッティング・エッジ」。 第6回となる今回は奥能登国際芸術祭にも参加しているアートプロジェクトチーム「スズプロ」からの現地レポートです。


 石川県の最北端に位置する珠洲市。里山里海の豊かで美しい自然に囲まれ、「さいはて」と呼ばれるこの地では、今年で3回目となる『奥能登国際芸術祭2023』が開催されます。私たち、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」も、これまでに5つの作品を制作し、芸術祭に参加してきました。

 今回は、奥能登国際芸術祭2023への参加に向け、今年の4月から7月にかけて行われたスズプロの活動内容を紹介します。

 はじめに、スズプロとは「奥能登国際芸術祭2017」への参加を目標に、専攻や学年を超えた有志の学生と教員によって結成されたアートプロジェクトチームです。『静かな海流をめぐって』というテーマを元に、珠洲市飯田町にある古民家の「八木邸」を制作拠点かつ展示会場として活動しています。結成以降は、現地でのフィールドワークや地元の方々との交流・調査を行い、お祭りへの参加やワークショップの開催等の地域交流を通じて、珠洲市への歴史的・文化的理解を深めるとともに、議論を重ねながら作品制作に取り組んでいます。

 奥能登国際芸術祭では、スズプロの活動の成果として、これまでに『家に潜る』、『こめのにわ』、『奥能登曼荼羅』、『いえの木』、『いのりを漕ぐ』という5つの大規模なインスタレーション作品を制作してきました。これらの作品には、古民家内を巡りながら、海流とともに変化(発展・衰退)してきた珠洲の歴史や文化を感じてほしいという、スズプロの想いが込められています。

 奥能登国際芸術祭2023に向けて、今年の4月からスズプロが再始動しました。初回のミーティングでは、スズプロの参加経験の有無に限らず、様々な専攻・学年の学生が有志で集まり、教員の方々との顔合わせを行いました。私自身も、4月から金沢美術工芸大学に研究生として入学したばかりで参加経験はありませんでしたが、出身が珠洲市ということもあり、地元に貢献したいという想いでスズプロに参加しました。それから、毎週開催される定例ミーティングにて、これまでの活動の振り返りや今後の課題の見直し、学生のアイデアや意見の共有等を進めていきました。そして、今後はスズプロの方針やスケジュール、作品の具体的なコンセプトから形状までが次々と精査・確定していき、これからの芸術祭開催までの期間がとても慌ただしくなるだろうと、当時のメンバーの誰もが予想していたのではないかと思います。

 令和5年5月5日、珠洲市全域で最大震度6強の地震が発生しました。土砂崩れや水道管の破裂による断水、道路陥没や段差の被害、そして住宅の破損から全壊まで、美しい里山里海に囲まれた珠洲市は、1日にして被災地へと変わり果ててしまいました。私の実家も全壊してしまい、スズプロの制作拠点である「八木邸」も重大な被害によって作品の一部破損とともに、立ち入り禁止となってしまいました。

 この度の被災状況を踏まえ、スズプロでは芸術祭への参加の可否について毎週ミーティングを開き、参加するのであればどのような作品を制作するのか、そもそも作品を制作することができるのか、といった議論を何度も行いました。その結果、今年のスズプロの方針として、‘‘八木邸の被害を考慮し、今年の芸術祭参加は断念するかたちとなってしまったが、別のかたちで珠洲市との関係を紡ぎたい。珠洲市の復興に協力したい。’’という方向に決定しました。そして、スズプロと珠洲市役所との間で何度か連絡を取った後、『珠洲市復興ロゴマークの制作協力』の要請がありました。

 このような経緯を経て、スズプロでは震災復興の象徴やその兆しとして『負けとられん珠洲‼』のロゴマークを制作・発表しました。ロゴマークの制作を進めるにあたり、有志の学生達から様々な案を募集し、スズプロ内でアドバイスや修正案の共有を行い、各々が自らの力で最終案へと創りあげました。その後、スズプロが事前に選定した複数のロゴ案を珠洲市役所へ提出し、審査会議の結果、私の案が採用されました。そして、ロゴマークの確定後、6月10日に珠洲市多目的ホール「ラポルトすず」で開催された「奥能登国際芸術祭2023企画発表会」にて、初めて公の場でロゴマークを発表し、現在に至るまで珠洲市のチラシやポスター、イベントのCM等に使用されています。

 最後に、ロゴマークの制作背景について紹介します。震災後、私の身内をはじめとした地元民の間で「負けずに頑張って生きましょう。」といった会話を耳にすることがよくありました。元々、自然が豊かで美しく、尊い伝統文化を誇る過疎地域といった印象のある珠洲市に、被災地という要素が加わってしまったことで、今後の珠洲市に対する不安というものは少なからずあるように思います。しかし、だからこそ、負けていられない。そんな想いから、珠洲市民の声と気持ちが見て届くように、地元の方言を用いた「負けとられん珠洲」というキャッチコピーを採用し、「角のある力強いフォント」で構成しています。4種類の配色に関しては、「里山」・「里海」・「のどかで心地良い風」・「未来への希望」を表現しており、またそれらを1つの輪として囲むことで、人と人、人と自然とが共に生きていく、その強い繋がりを一筆書きで表しています。

 今年のスズプロでは、様々な困難や障壁はあったものの、例年とは異なるかたちで奥能登国際芸術祭2023に参加しました。しかし、ロゴマークの制作は私達の活動の始まりに過ぎません。これからも、多大なる盛況を魅せるであろう「奥能登国際芸術祭」はまだ始まったばかりです。芸術祭開催予定日である令和5年9月23日から11月12日までの期間はもちろん、それ以降も私達にできることを模索していきます。

ぜひ、今後もスズプロと珠洲市の活動に注目ください。

Profile
金沢美術工芸大学 研究生
坂東凜汰朗
2000年石川県珠洲市生まれ。金沢美術工芸大学大学院 美術工芸研究科 研究生(デザイン科 製品デザイン専攻)。2023年3月に福井工業大学デザイン学科を卒業した後、4月より金沢美術工芸大学へ入学。その後、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」に参加し、珠洲市の復興ロゴマークを制作。現在は「地産材料を生かしたプロダクトと循環の仕組み」をテーマに、放置森林に焦点を当てながら研究している。(過去、能登ヒバを使用した木製ロレータ歩行器「SAIKER」を制作。2022年度福井工業大学卒業制作展 F’s Design賞受賞)
2000年石川県珠洲市生まれ。金沢美術工芸大学大学院 美術工芸研究科 研究生(デザイン科 製品デザイン専攻)。2023年3月に福井工業大学デザイン学科を卒業した後、4月より金沢美術工芸大学へ入学。その後、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」に参加し、珠洲市の復興ロゴマークを制作。現在は「地産材料を生かしたプロダクトと循環の仕組み」をテーマに、放置森林に焦点を当てながら研究している。(過去、能登ヒバを使用した木製ロレータ歩行器「SAIKER」を制作。2022年度福井工業大学卒業制作展 F’s Design賞受賞)