タテマチストリートを歩いていると、中ほどでスパイスの香りが広がる。その出どころは、2023年3月にオープンした「スパイススタンド青春.」。本格スパイスカレーを求めて土日は行列ができるその2階には、「アドレセンス.」と名付けられたギャラリースペースがある。東京に拠点を置きつつ運営しているという、福村赳さんに話を聞いた。
──福村さんがギャラリーの運営を担当されているのですよね。最初から、大岩さん(料理担当)と一緒にお店を開くことが決まっていたんですか?
ここにもともと入っていたお店が出るタイミングで、カレー屋をやろうと思っていました。僕は基本東京にいてサラリーマンとして働いています。その状態のままカレー屋を誰かに任せようと考えた時に、片町のアパレルや大阪のベトナム料理屋、カレー屋で働いた経験のある彼にお願いしました。
構想として1階のカレー屋は彼に任せて、2階をどういう風に活用していこうかと。最初からギャラリーにしようと決めていたわけじゃなくて、僕自身アートというものに幼少期からずっと興味があったので、この空間を生かす方法を考えた時に、ギャラリーが一番やりがいも感じるし、街おこし的なものにも繋がるかなと思いました。
──福村さんのご出身はどこですか?
金沢です。大学は東京で、教育学部の特別支援教育、障害児教育を専攻していたんですが、高校生の時はいろんなものに興味が湧いちゃって、ファッションデザイナーや俳優を目指した時期もありました。公務員で真面目な両親には不安に思われて(笑)、親を安心させるために大学に行き、大学で好きなことしたほうがいいんじゃないかと早速アパレルのアルバイトを始めて。より服に対する興味が湧いたのでオリジナルのブランドショップを開いたのですがうまくファンを作れず、親から「いい加減仕事しないなら公務員になれ」と言われました。勉強は嫌いではなかったので、公務員として石川県庁に入り、大学の延長で福祉課に配属されて、障害者のライフプランニングや適切な施設に繋げたりする相談員をしていました。退職してからは、東京に対する未練もあったので、自分の洋服をECサイトで売っていた時のノウハウを生かして広告プロモーション会社に転職し、今に至ります。サラリーマンと並行して、このお店を経営しています。
──すごく忙しそうですね!
そうですね。2週間に1回、週末に金沢に来て、店の様子を見つつ展覧会を企画しています。ちょっと回っていないところもあるので、スタッフを新たに増やそうとしているところです。
こっちに帰ってこない理由は、東京にはいろんな人がいて、ものや人との出会いがあるからです。人と接するのが好きなので、東京の環境は苦じゃなくて。いろんなところに顔を出すといろんな人を紹介してもらえて、それをこっちに持ってきて金沢の人にもっと知ってもらいたい。金沢ではアーティストに宿泊してもらうための部屋も借りています。
──アートにはもともと興味があったのですか?
絵が好きになったのは環境関係なく、幼少期の頃から色々描いて、図工や美術の時間が好きでした。また地元に対する思いがあって、「アートの街」と金沢は一部で言われてると思うんですけど、その割に意外とこの街には何もないぞと思ったんですよね。東京にいて「今度金沢に行くからおすすめ教えてよ」とアートに敏感な人に聞かれても、僕自身21世紀美術館くらいしか出てこなかったんです。最近はKAMUもできたんですけど、その二つぐらいで。本当にそういうなら、名実ともに正真正銘の「アートの街」だと、地元が好きだからこそ言いたいという思いがあったんですよね。「そんなことないよ」という人もいるかもしれませんが、この僕自身の思いがギャラリーをやることに繋がっています。
また、21美やKAMUはどちらかというと体験型で、作品を購入したりできないんですよね。僕は、作品は洋服と一緒だと思っています。洋服は眺めているだけだとセンスは磨かれていかない。いろんな服を買って着てみて、自分に似合うスタイルがこれだとわかって、そこからいろんなものを買って捨てて、売っての繰り返しでオシャレになっていきます。アートも見てるだけ、体験型だけだとその場は楽しかったりいろんなことを感じたりするんですけど、それで消化されて、写真撮って終わり。振り返ると何も残ってなかったりするので、やっぱり買ってほしい。買ってインテリアの一部としてあーだこーだ言いながら作品と向き合っていく時間を増やして、よりその作品を好きになることで別の作品に興味が出てきたりする。一つの作品を深めるといろんなところに興味が出てきて、センスが磨かれていくと思うので、全部購入できるアートとしています。
──客層としては、どんな人が多いでしょうか?
観光客に21美、KAMU、ここアドレセンスに歩いてきてもらえる流れは最初から意識はしていました。ちょっとずつ回ってくれてる人は増えていますね。地元の人はまだまだ少ないですが半々を目指したいなと思います。県外の人には「金沢にこんな面白いギャラリーあるよ」と知って欲しいですけど、金沢市民のアートセンスを底上げしたい思いもあるので、地元の人たちにも継続的にきてもらえるように展覧会もできるだけ多くやりたいです。
あとは展覧会だけでなく、ライブイベントや腸活セミナーなどもこれまで行ってきました。まずは来てもらって店の存在を知ってもらうことが大切で、そのきっかけは展示でもセミナーでも音楽でもいい。ここにこういう空間があって人が集まっている、というのが伝われば第一段階として良いかなと。
──まだ立ち上がったばかりですが、福村さんが理想とする将来像のようなものはありますか?
お店としては、雑誌などで金沢が特集される時に、21世紀美術館やKAMUと一緒に「アートの街」の要素の一つとして紹介されるようになりたいですね。
街おこしというスケールでいうと、実は高校2年生の弟がいるんですが、僕らがその年齢の時に見ていたこの竪町には、本当に人がいたんですよ。自転車も止められないくらい人が溢れていたのに、今閑散としてしまっているのが悔しいんです。僕が学生の頃は、部活のあと友達と自転車で来て、ストリートブランドの流行ってたものをお小遣いで買って、ドキドキしながら店員さんと挨拶して。目上の人とのコミュニケーションのとり方は、このストリートやクラブで学びました。意外とそういうところで揉まれて培われて、フィジカルで大切なことを学んでいくのも僕は必要だと思うんですが、弟は竪町に来たことがないくらいで。できれば下の世代に同じ景色を見せてあげたいし、こういう世界もあって勉強できるというのを選択肢の一つとして見せたいんですよね。県庁にいたこともあり、石川県に対する思いもありますし。弟がいるからこそ街おこしとしての思いが強くなってるんだと思います。
──「アドレセンス」という店名の由来は、福村さんの青春もここに詰まっているし、ここが下の世代にとっても青春の街であって欲しいという気持ちが込められているんですね。今日はありがとうございました。
(2023年9月、取材・聞き手:金谷亜祐美)