コラム
2023.05.31

金沢の新たな魅力を発見する!ナイトミュージアム上映会プログラムの開催を通じて|田畑友子

喜びを他の誰かと分かりあう!
それだけがこの世の中を熱くする!
(©︎小沢健二)

2021年の年末ごろ、私は金沢芸術創造財団から「金沢ナイトミュージアムのプログラムのプランナーに挑戦してみませんか?」と声をかけられ、ナイトミュージアムプログラムに初挑戦することになりました。

このプログラムは、皆さんと映画鑑賞するだけではなく、直接語り合い、意見を共有したり異なる視点や解釈の発見することで、映画を通して交流を楽しむ、建物との出会いを含んだ上映会プログラムです。

8月に「土手と映画と幽霊」10月に「建物と映画とゴースト」という二部構成となった上映会の第二部を終えた帰り道、私は自然と冒頭のオザケンの歌詞を口ずさんでいました。

プログラム参加者の方がアンケートに「建物と映画が一体化した体験したことのない空間を楽しむことができました」と書いていただいたことは私の表現したかったコトが伝わり、胸が熱くなりました。

2022年の1年はプログラム企画、準備があり、1人では大変な面もありました。

コロナ禍の時代の中、開催が危ぶまれる懸念を乗り越えて、無事に開催する事ができたのは徳田秋聲記念館の学芸員である薮田さん、金沢芸術創造財団の内山さん、ディレクターの黒沢さん、お三方に沢山のサポートをいただいたおかげです。また渡邉高章監督、俳優の星能豊さん、会場協力をいただいた(株)米三のスタッフの方々、小西不動産、正美保育園、映画好きの仲間である友人達の協力。

多くの方々にサポート頂き、順調に進行できましたこと、ここに深く感謝申し上げます。

プログラムのこだわりと、上映作品が決まるまで

私のプログラムにはこだわったポイントが3つあります。

1つ目は上映する「建物」「場所」にこだわる。その場の歴史もマッチングさせる。

2つ目は会場の雰囲気づくり。

3つ目は上映作品のキーを「幽霊」と「ゴースト」とすること。

少し長くなりますが、ここからは私の2つの上映会に向けて、考えたことをストーリーを交えて綴らせていただきます。

まず1つ目の上映する「建物」「場所」にこだわるために、作品を決めなければなりませんでした。ナイトミュージアムは夏から秋にかけての夜の催し物。夏はお盆や肝試し。秋はハロウィン、おばけが季節柄にキャッチーかなと思い、上映作品をセレクトした……と言うのは実は後付けのこだわりです。

渡邉高章監督作品「土手と夫婦と幽霊」は金沢の俳優である星能豊さんが主演で、シネモンドでも凱旋上映されていたのですが、「見逃してしまった!」と言うお声も多く聞いておりました。また実は私自身が映画のスチール撮影に携わらせていただいていた作品でもあります。

もう1作品のデヴィッド・ロウリー監督「ア・ゴースト・ストーリー」は観た方にはわかると思うのですが、鑑賞後に誰かと語りたくなる作品で、映画を通してコミニュティを作るイベントにうってつけと思い、決めました。それに2つの映画作品の「幽霊」と「ゴースト」を対比できることや、両方の映画が夫婦のストーリーであるという共通性もありました。

こうして上映作品が決まり、イベント主旨も固まり、次はポイント1つ目でもある、上映会場を見つけるコトになりました。

幻の上映会場「金沢大手町洋館」

金沢大手町洋館は写真【写真1】から伝わる様に雰囲気満点な1930年代に建てられたドイツ式洋館です。実は企画を考えるにあたって、この洋館でホラー作品を上映できたら、ということが念頭にありました。

さらに言えばホラー映画でA24製作の「ライトハウス」を上映すると考えていましたが、上映使用料金の予算や、イベントの総体的時間を考察していくと、作品時間が少し長く悩み、同じA24作品の中で私の大好きな作品でもある「ア・ゴースト・ストーリー」が候補に。イベント企画を構築していく中で上映作品として決まったのでした。

しかし、金沢大手町洋館には空調が一切無く、また自ら会場設備を創り上げるには時間や予算が結構かかります。また会場として借りれるかも分からない状況でした。そこで安心して準備が進められる様に別の会場を探す事に決めました。

そこで頭を切り替え、先に「土手と夫婦と幽霊」の上映場所を考えることにしました。これが功を奏したのか、芋づる式にどんどん面白くもアイディアがつながり、運良く2つの企画が出来上がって行きました。

【写真1】

8月、徳田秋聲記念館にて

「土手と夫婦と幽霊」は東京の多摩川の土手が舞台で、夫婦のお話です。金沢には別名、男川の犀川、女川の浅野川があり、主演の星能豊さんは小説家の役。そのように思いを巡らせたところ徳田秋聲記念館がすぐに頭に浮かびました。2階には浅野川が眺められる全面が窓のスペースもあります。ここが相応しい!と直感的に思いました。

浅野川をバックに、夕日が沈む自然の風景が野外上映の様に少し解放的に感じるかな?映画とその背景も鑑賞する中に溶け込んで、より作品を引き立ててくれるのでは?そんな映画館ではない、違う鑑賞方法に挑戦してみたかったのです。

実際にプログラム終了後、参加者の方から「最初は外が明るくて、スクリーンも少しぼんやりしていて、映画の内容が段々とはっきりしてくるのと共に外が段々暗くなっていって、スクリーンがハッキリしていって、その対比が良かった」とお言葉をいただきました。

また、主演の星能豊さんと徳田秋聲さんは同じ小中学校出身というご縁もあり、秋聲先生のお人柄は映画やダンスなどがお好きで、後輩の方々の面倒をよく見ていらっしゃったと学芸員の薮田さんから教えていただき、企画が通ると「星能君の主演映画の上映会を此処でしたらどうだい?」と勝手な想像ですが秋聲先生が、おっしゃって下さっているかの様にも感じました。

会場のBGMには秋聲先生がお好きだった映画音楽を2曲選曲し、映画鑑賞後のアフタートークでは渡邉監督が文学がお好きで、大好きな文豪が中原中也。学芸員の薮田さんとの共通点が見えたり、文豪話にも花が咲き、徳田秋聲記念館の場所での上映会にさせて頂き良かったなとしみじみ思いました。

上映会に来て下さる方々には、映画だけでなく、浅野川付近の景色や町並みの良さを散策していただきたい思いや、浅野川で映画の余韻に浸るのもまたヨシ!なんて思いもあったのですが、当日はまさかの!大雨警報が連日続く豪雨の中でした。

浅野川は氾濫をした事もあるので、すごく不安でしたが、足元が悪い中にも、皆さまキャンセルなく会場にお越し下さり、ありがたい気持ちで一杯でした。

『映画とトークを合わせて約2時間と言う、コンパクトさではありましたが、内容の濃い企画でした!荒れた雨模様、流れの速い浅野川も華を添えましたね。』と感想もいただきました。

私も秋聲先生と幼少期の育った環境にゆかりがあり、卯辰山を見て育ち、愛でていた同じ共通点などを知る度に、背中を押して下さっている様に感じました。今回、無事に開催できたことを励みに、これからもこの場所で上映会ができたらなと新たな希望が生まれました。

10月、戸板ホールとの出会い

徳田秋聲記念館での上映会企画が通り、少し心に余裕ができた頃、改めて「ア・ゴースト・ストーリー」の上映場所を考えはじめました。

大切なポイントは映画鑑賞後に話し合える場。安全で、リラックスしながら鑑賞でき、空調設備があり、席にもこだわりたい……。

自分の記憶の中から金沢の街の地図を見ながら考え、ふと浮かんだ気になっていた建物が、うす水色と白枠の窓がある木造のレトロな外観のカワイイ「戸板ホール」でした。

いざ調べていくと国指定登録有形文化財に登録されていました。1940年に村役場として建てられ、当時は同じ様な建物が沢山あり、もっと立派な物もあったのだけど、金沢市に合併され、役目が無くなると、どんどん取り壊しになっていき、最後に残った雄一の建物が戸板ホールだったと所有する小西不動産の小西さんより後にお話しを聞かせて頂きました。

保育園や小学校の公民館へと役目は変化していく中、近年ですと、広告制作会社やデザイン事務所などが入っていましたが、皆さん出世されて東京へ進出して行かれたと言うエピソードもあり、現在は北海道の家具ブランド「カンディハウス」のお店を富山の(株)米三が店舗として入られています。

車で通る度に、気になってはいたものの、中には一度も入った事がなく、一か八か!

お店に来店予約を申込み、伺わせて頂きました。そこには、ココだ!と言わんばかりの映画の世界観に近いテイストで広がる空間。

「ア・ゴースト・ストーリー」に同化できそうだと感じるモノがあり、直ぐにお店の方にプレゼンをはじめました。急な事で驚かれたと思いますが、前向きに検討して下さり、後に、財団の内山さん、黒澤さんも一緒にお話しに伺わせて頂き、無事に会場が決まりました。まるで映画に導かれるように。

場所を通じて誰かと喜びを分かち合うこと

映画を観た後って、誰かと共有したい思いになられた事はありませんか?

私はコロナ禍になり、直接会って語り合う機会がかなり減ってしまった今だからこそ、まさにその必要を感じました。他者の価値観や、意見を聞く事で自分では気づけなかった事を学べたり、受けいれたり、受け入れられなかったり、考えたり、映画を通して老若男女でコミュニケーションが楽しめる体験。

私はこのプログラムで徳田秋聲記念館や歴史ある戸板ホールの建物を通じて、カンディハウスさんの素敵な家具を体験しながら映画を鑑賞する。「土手と夫婦と幽霊」や「ア・ゴースト・ストーリー」の世界と現実がつながっているかの様に体験してもらえたらなという思いを会場に託しました。

今回、来れなかった方にも是非是非「土手と夫婦と幽霊」や「ア・ゴースト・ストーリー」を鑑賞して、徳田秋聲記念館やカンディハウスさんへ出かけて見て欲しいです。建物が語りかけてくるような感覚、又はあなたの新たな発見が見つかるかもしれません。また、次はあなたが金沢の街の何処かで最高な上映会を実現できるチャンスが。

おすすめはまず、頭の中で考えてみるだけでも楽しいので「金沢のどこどこで〇〇の上映会したら面白い案」を膨らませてみること。是非、次は参加者側でも思う存分体験したいと思っています。

Profile
田畑友子
1984年、金沢市生まれ。 名古屋造形芸術大学卒業後、東京で広告媒体の商業撮影スタジオに2年勤務。後にフリーランスカメラマンとして始動。 2011年金沢へ戻り、シネモンドと金沢21世紀美術館が主催する「こども映画教室」と出会い、ボランティアスタッフとして携わる中、そこで出会った仲間たちが企画する自主映画上映会の手伝いをする中、自分でも上映会を企画してみたくなる。 現在は、金沢21世紀美術舘内の「広坂シネマクラブ」部員として活動中。
1984年、金沢市生まれ。 名古屋造形芸術大学卒業後、東京で広告媒体の商業撮影スタジオに2年勤務。後にフリーランスカメラマンとして始動。 2011年金沢へ戻り、シネモンドと金沢21世紀美術館が主催する「こども映画教室」と出会い、ボランティアスタッフとして携わる中、そこで出会った仲間たちが企画する自主映画上映会の手伝いをする中、自分でも上映会を企画してみたくなる。 現在は、金沢21世紀美術舘内の「広坂シネマクラブ」部員として活動中。