コラム
2023.06.12

リレーコラム「考える金沢人」第1回──能登半島の宇宙への島|菊谷達史

 北海道から石川県に移住して今年で16年目になる。18歳の時に引っ越して来たので、もう少しで人生の半分を金沢で過ごしている事になるし、実際金沢市は人生で一番長く住んでいる町でもある。時の速さが恐ろしいような感慨深いような。だから黒澤伸さんから「考える金沢人」と題されたリレーコラムの話が回ってきた時も、割とすんなり受け入れる事ができた。テーマは自由。何について書こう。肩肘を張ると考えている事について考えてしまう性分なので、「これならスラスラ書けそう」という条件から題材を逆算する事にした。

 ぼくはここ数年、その存在は知っていたけど行く機会の無かった文化施設へ意識的に足を運んでいる。北陸に16年住んでいても知らない場所、行った事のない場所はまだまだ無数にあるのだ。

 ここ最近だと金沢ふるさと偉人館、石川県銭屋五兵衛記念館、大野からくり記念館、硲伊之助美術館、福井県立恐竜博物館、藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー、尾小屋鉱山資料館、石川県ふれあい昆虫館、ひみ獅子舞ミュージアム、フォッサマグナミュージアムなどに足を運んだ。どの施設も一つずつコラムを書けるくらい興味深い場所だった。そして今回のコラムを口実に、ぼくはずっと気になっていた場所へ行く事にした。

商品棚のゴロンの香辛粉風味のドライカレーおにぎり 撮影:筆者

コスモアイル羽咋へ

 2023年5月14日午前10時頃車で家を出た。近所のローソンに寄り、アイスコーヒーと練乳ミルクフランスを購入した。おにぎりコーナーには先日発売されたばかりのビデオゲーム『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』とのコラボ商品「ゴロンの香辛粉風味のドライカレーおにぎり」が並んでいた。「ゴロンの香辛粉」はゲームに登場する架空の香辛料だが、その名を堂々と冠されたおにぎりが売られてるのが、可笑しくて思わず写真に収めた。今度食べてみようと思う。

 この日の天気はやや曇りだった。のと里山海道からは、それでもいつもの澄み渡る空と海が望めた。一時間ほど車を走らせ今日の目的地に到着した。田園風景に突然そびえ立つ宇宙ロケットは「レッドストーン・ロケット」というアメリカ航空宇宙局(NASA)から譲り受けた本物の機体だ。胴体部分はマグネシウム合金でできていて、潮風吹く羽咋の屋外に長期間に設置してあるにも関わらずほとんど錆びがみられなかった。ホームページに載っていた情報の通りだ。

 能登半島の西の付根に位置する町、羽咋市に1996年に開館した「宇宙科学博物館 コスモアイル羽咋」。以前からその存在を知ってはいたが、「宇宙人の解剖模型が展示されている」といった噂から、なんとなくオカルト的な、とてつもない場所というイメージを抱いていた。

 そもそもなぜ羽咋市に宇宙科学博物館があるのか。ホームページには要約すると概ね次のことが書かれていた。

コスモアイル羽咋入り口に設置された本物の宇宙ロケット 撮影:筆者

 1984年頃。町おこしのネタを探していた青年団メンバーは、羽咋市の歴史を調べている過程で、江戸時代に頻繁に目撃されていた未確認飛行物体「そうはちぼん伝説」の記述を古文書から見つけた。「そうはちぼん」とは妙鉢と呼ばれるシンバルによく似た仏具(打楽器)のことである。その後、この伝承をUFOと結びつけたまちづくりが始まった。

 「UFOうどん」などのご当地グルメからスタートしたまちづくりが、どのようにして宇宙開発事業の貴重資料をいくつも有する本格的な宇宙博物館を開館させるまでに至ったかは、仕掛け人である高野誠鮮さん話がとても面白いので、ぜひ読んでみて欲しいと思う(http://www.hakui.ne.jp/ufo/01_02story.html)。

 博物館への入館料は大人500円。コスモシアターと呼ばれるプラネタリウムでの映像作品鑑賞とセットで900円だった。

 上映されている作品は二つあったけど、ぼくは『VOYAGER/ボイジャー 終わりなき旅』という映画を観る事にした。ウクライナ・キーウを拠点にするアニメーションスタジオ「UMA VISION」が2020年に制作したこの映画は、1977年に打ち上げられた2つの無人惑星探査機の軌跡を辿る物語だ。

 番組案内表には小さく「ウクライナ支援特別番組」と印刷されていた。入館料の一部が何らかの形で支援金に回されたりするのかもしれないが、確認するのは忘れてしまった。

コスモアイル羽咋宇宙科学展示室の様子 撮影:筆者

展示物と本物

 宇宙科学展示室に入ると、宇宙船、宇宙服、月面ローバー、時計、宇宙食、エンジン、通信衛星、月の土、隕石、探査機、写真、映像などが所狭しと並んでいた。宇宙空間が演出された仄暗い空間も相まって、胸が躍るのを感じた。

 コスモアイルのホームページにはこう書かれている。「・・・(コスモアイルの)最大の特長は、“本物”が展示されていることです。海外製の本物の宇宙機材は、日本国内では希少であり、これだけ多くの本物が展示されている施設はコスモアイル羽咋だけです」。博物館を作るにあたってワシントンDCにあるスミソニアン国立航空宇宙博物館を視察した高野さんは、そこで「本物を置かねばならない」と気づいたと語っている。

 ただし、展示キャプションを丁寧に読めば、展示物の全てが「レッドストーン・ロケット」のような“本物”でない事がわかる。

 たとえばアメリカ合衆国から得た「マーキュリー宇宙船」「アポロ指令船」「アポロ月面宇宙服」「ボイジャー惑星探査船」などは、本物と同様の素材、もしくは実際に使用された実物が部分的に使われたレプリカであった。

 では全体的に“本物”の宇宙機材は無いのだろうか。あった。旧ソビエト連邦の「ボストーク宇宙船(カプセル)」は全てが“本物”だ。これは地球は青かったという台詞でお馴染みのユーリイ・ガガーリンが、人類史上初の宇宙飛行に成功した際に使用した機体と同型のものだ。61〜63年に行われたボストーク計画で実際に使用された機体には、宇宙から大気圏に突入した際に出来た焦げ跡が確認できる。

 その他にも、月の土を持ち帰った「月面探査機ルナ24号」や「モルニア通信衛星(サテライト)」、アメリカの「ルナ・マーズローバー」などは“本物”のバックアップ機や実験用プロトタイプ車だ。特にルナ24号は世界に1機しか残っていない大変貴重なものだという。

 つまり宇宙科学展示室には三種類の展示物が存在する。

 実際に使用された“本物”が部分的に使われているレプリカ。“本物”と同じ素材で作られたレプリカ。本番では使用されなかったものの、テスト機やバックアップ機として用意された“本物”の機体。ちょっとややこしくはある。

 実際ぼくは、このコラムを書くにあたり、あらためて展示物の情報を確認するまで「ボストーク宇宙船(カプセル)は、ガガーリンが乗り込み宇宙に行った機体なのだ」と誤認していた。とはいえ、ぼくは「本番で使用された“本物”が無いじゃないか」とケチをつけたいのではない。宇宙科学展示室の展示物には、石川県七尾美術館所蔵の「複製松林図屏風」や福井県立恐竜博物館の骨格標本を観たときにも感じた、「何が“本物”で何が“本物でない”か」なんて正直どうでも良いと思わせる迫力と美しさがあった。

アポロ月面宇宙服には強い紫外線を防ぐため純金の金箔使われている  撮影:筆者

動かされる石ころ

 正午。コスモシアターで『VOYAGER/ボイジャー 終わりなき旅』を鑑賞した。プラネタリウムで観るドーム型映像体験は、投影した映像を観る通常の映画と、ヘッドセットを装着し首を振って360度を観るVR映像、二つの映像の特徴を併せ持つようなものだった。

 1977年。無人宇宙探査機ボイジャー1号と2号は、木星・土星・天王星・海王星を観測を目的に打ち上げられた。地球から最も遠くに存在する人工物である。1980年代までに外惑星の鮮明な映像記録の撮影に成功し、多くの新発見に貢献した。搭載されている原子力電池は想定を遥かに超えて長持ちし、現在も稼働し続けている。1号は2012年、2号は2018年に太陽系を脱出し、2025年から2030年までに通信不可となる見込みだ。

 ぼくたちはボイジャーが辿ってきた40年弱の旅路を(若干酔いながら)追体験した。太陽系の惑星、衛星の風景が、最新の研究に基づき3DCGで再現されたこの映画は「サイエンス・ドキュメンタリー」といったジャンルに区分されると思うけれども、誰もみた事の無い風景を観客に提供するという意味では、フィクション映画とも通じるものを感じた。

 展示室に戻り残りの展示物を観て回った。南アフリカ共和国フリーステイト州にある世界最大の隕石衝突跡「フレデフォートクレーター」の隕石の展示は、ケース越しに素手で持ち上げられるようになっていた。

 宇宙→アフリカ→日本→能登。自分がいま手にしてる石からその旅のスケール感を想像するのは難しく途方に暮れた。

 多くの展示物にはそれぞれ解説モニターが設置されていた。日本語と英語の二カ国語のどちらか選択し、スタートボタンを押すと短い映像が数分間再生された。ロケット発射の瞬間や、宇宙飛行士の様子を捉えた記録映像。宇宙船のミッションを解説する模型による特撮映像。さまざまな映像に見入った。これら映像がとても面白かったので、ミュージアムショップにDVDでも売ってないものかと考えたが、残念ながらには売られてはいなかった。

 帰りの車内。ぼくはコスモアイルの解説映像を観ている時に思い出したある事について考えていた。1969年のアポロ11号月面着陸映像は、実は映画監督のスタンリー・キューブリックが捏造したものであるという有名な都市伝説だ。

 『2001年 宇宙の旅』(1968年)は、アポロ11号が月面着陸した前年に公開された「SF映画の金字塔」として非常に有名な映画だが、これまで観たことがなかったので自宅に帰って観てみることにした。むかし友人は「長くて寝ちゃった」と言っていたけど、『時計じかけのオレンジ』や『シャイニング』よりも前の60年代に撮ったとは思えない新鮮な感動を覚えた。

 宇宙映画を観たのは『インターステラー』(2014年)ぶりだったかもしれない。インターステラーに出てくる「TARS(ターズ)」は、『2001年宇宙の旅』のモノリスのオマージュなんだっけ。そういえば『インターステラー』の冒頭でもアポロ月面着陸は古い教科書に載っている誤った歴史とされていた。

資料室には宇宙機器の模型やレゴで再現されたコスモアイル羽咋が展示されていた  撮影:筆者

 

『2001年 宇宙の旅』の劇中で「宇宙ステーションⅤ」や「ディスカバリー号」がゆっくりと宇宙空間を漂うシーンは、コンピューターで映像を加工するVFX技術が無かった時代に、特撮(SFX)によって長時間かけて撮影されたと聞いた事がある。模型とは思えないほど巨大なスケールに感じられた。

 一説によるとキューブリックは「夢を壊すから」という理由から、撮影に使用したセットの多くを破棄したと言われている。しかし実際には関係者が持ち帰ったり、キューブリック自身が人に譲渡したりと、いくつかは残っているらしい。

 それらの模型は近年オークションに度々登場している。撮影で実際に使用された「アリエス1B型月シャトル」の模型は、2015年オークションに出品され、米映画芸術科学アカデミーが落札した。模型は現在、ロサンゼルスに2021年に開館したアカデミー映画博物館(Academy Museum of Motion Pictures)に展示されている。

 『2001年宇宙の旅』に焦点を当てた展覧会は、2018年の「Barmecide Feast」(スミソニアン国立航空宇宙博物館)や、2020年の「Stanley Kubrick’s 2001: A Space Odyssey」(Museum of the Moving Image NY)など、今も度々開催されている。複製芸術である映画に“本物”は存在しないが、ぼくもいつかアカデミー映画博物館に足を運び「アリエス1B型月シャトル」の“本物”の模型を観てみたいと思う。とりあえず今日のところは「ゴロンの香辛料風味のドライカレーおにぎり」を食べる。(2023/05/24)

次は漆で作品を作る遠藤茜さんにバトンを渡します

 

 


巡回と新作を交えた菊谷達史の個展「エッジアドベンチャー・ウィズ・ランニングドッグ」が東京都東十条のアーティスト・ラン・スペース「JUNGLE GYM」にて開催。

 東京都東十条のアーティスト・ラン・スペース「JUNGLE GYM」で、菊谷達史による個展が開催されます。昨年12月に金沢市民芸術村で開催された個展「スノーモンスター・ウィズ・ワーキングドッグ」で、私は北海道稚内市やゲレンデといった自身の原風景を直接的に扱うことにチャレンジしました。

 リサーチの過程で稚内にかつて「南極学術探検隊樺太犬訓練所」が設置されていた事を知り、最終的に八甲田雪中行軍遭難事件と第一次南極観測隊における使役犬を題材にした作品を発表しました。

 今回のJUNGLE GYMでの個展は、金沢市民芸術村の個展で発表した作品のほか、使役犬に関する「第三のエピソード」から着想を得た新作で構成された、半巡回展半新作展的な個展となる予定です。

菊谷達史 氷上クワドロペッド キャンバスに油彩

会場 JUNGLE GYM(東京) 会場ウェブサイト
会期 2023年6月17日(土) 〜 6月30日(金) 月曜休廊
時間 13時〜19時 最終日 6月30日(金) 17時まで
企画 山﨑千尋

Profile
洋画家・グラフィックアーティスト
菊谷達史
1989年北海道稚内市生まれ。2013年に金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科絵画専攻油画コースを修了。iPhone上に残された身近な記録写真や映像をもとに、ポップアートや近代洋画、イラストレーションを混合させたようなシュルレアリスティックな絵画やアニメーションを制作。近年の展覧会に個展「スノーモンスター・ウィズ・ワーキングドッグ」(金沢市民芸術村アート工房 PIT5、石川、2022)、「影をしたためる notes of shadows」(biscuit gallery、東京、2022)、「ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校第5期最終選抜成果展」(ゲンロンカフェ、東京、2020)など。近年の上映に「前橋映像祭」(群馬、2023)、「第9回新千歳空港国際アニメーション映画祭」(北海道、2022、北海道知事賞)など。
1989年北海道稚内市生まれ。2013年に金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科絵画専攻油画コースを修了。iPhone上に残された身近な記録写真や映像をもとに、ポップアートや近代洋画、イラストレーションを混合させたようなシュルレアリスティックな絵画やアニメーションを制作。近年の展覧会に個展「スノーモンスター・ウィズ・ワーキングドッグ」(金沢市民芸術村アート工房 PIT5、石川、2022)、「影をしたためる notes of shadows」(biscuit gallery、東京、2022)、「ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校第5期最終選抜成果展」(ゲンロンカフェ、東京、2020)など。近年の上映に「前橋映像祭」(群馬、2023)、「第9回新千歳空港国際アニメーション映画祭」(北海道、2022、北海道知事賞)など。