コラム
2023.07.07

KANABIカッティング・エッジ 第4回──現代美術はじめました〜 芸術学専攻、通称「スケープ」|よしだぎょうこ

 金沢美術工芸大学は、2023 年、新しいキャンパスへの移転を迎え、新しい専攻やコースが始まる改変の過渡期にあります。芸術学専攻でも、一昨年より大きな体制変革が始まりました。
 従来の、美術館学芸員や教員を育ててきた基盤に加えて、時代の趨勢を踏まえ現代美術領域を拡張し、国際的な即戦力を持ったプロを養成する体制を中心とした専攻へと生まれ変わりました。

1  理論と実践を融合した領域横断的なアートを創出する力
2 多層的・流動的な現代世界を知覚し、国境を超えた持続可能な芸術文化のアプローチ・方法論 を練り上げる力

 このふたつの育成方針を掲げて、世界の一線の現場で活躍できる人材育成を目指し、2021 年よ り専攻英名を「Sustainable(= 持続可能な )Contemporary(= 現代 )Art(= アート ) Practice(= 実践 / 制作 )and Visual Culture Studies( = 視覚文化研究 )」と変更 。通称名を、イニシャルを捩って「SCAPe( スケープ )」とすることを言挙げしました。
 それに伴い一昨年より主たる指導教員があらためられ、現在、美術批評家 -キュレター ・プロデューサー – 視覚文化研究-現代美術作家などそれぞれの専門領域で一線のキャリアを有した、ニューヨーク、ロンドン、北京などの海外在住活動経歴のある教員で構成されています。国際化を目指す体制の中、菊池教授を中心に視覚文化研究を重視し、英語教育を積極的に授業に取り入れた指導体制が強化されました。海外での発表や学会への参加など、成果も見え始めています。

 もうひとつの大きな変化として、よしだ教授を中心とした現代美術領域での多形式の作品や、企画などでの卒業単位の習得が可能になったことが挙げられます。既に実技での卒業生が実技学生として大学院合格を果たし、地元金沢のNPO団体が運営する石川の大学卒展セレクションで得票率一位になり年間サポート作家に選ばれたり(2022)、学部生で実技において大学派遣海外留学生に選ばれたり(2022)など、短い間に確実な結果を出しています。
 今年度からは更に、キュレーション分野を担う金島准教授が着任しました。それによって、新しい分野として導入された「現代美術領域ー制作と理論」(2021)「現代美術領域ーキュレーション」(2023)など、従来の専門領域にはなかった実技実践の領域が大学院まで跨って新設されました。よしだ教授・金島准教授を中心に展開されるこの新しい二領域を中心に、一年次から四年次までの授業内容をご説明します。


一年次

 一年生は、従来の西洋美術史、東洋美術史などに加え、視覚文化研究の菊池教授主担当・山本講師による芸術学演習 (1) でグルーバル理論を学び低学年から研究論文の基礎教育、英語教育に力を入れた編成です。
 実技指導体制については大幅に改革が行われました。本学芸術学専攻の特徴であった工芸、彫刻、絵画、デザインなどの教職に関連した集中実技基礎演習に付け加え、専攻必修科目として「現代美術領域ー制作と理論」の多形式制作グループワークが2021年度より導入されました。
 2021年度より現代美術領域の制作と理論が「芸術学概論」グループワークで学べるようになり、今年度2023年度からはさらにキュレーション-プロデュースも専門教員が加わり大学院まで、現代美術領域の制作と理論及びキュレーション指導について体系化されました。

二年次

 二年生では、従来の美学学習や近代美術史に加え、実技系では2021年に立ち上げられたスケープの代表的な授業のひとつであるアーティストインレジデンス(専攻研修旅行)を含んだ学部ニ年次での必修授業“ 芸術学演習 (2)” [ 現代美術領域 ー制作と理論 ] が主担当よしだ教授によって始まります。通年を通して制作展示と企画広報を体得できるプログラムです。
 学生は各々将来進む専門領域に従い、現代美術作品制作・企画・広報の3つのチームに分かれ、小さな模擬社会の中で展示企画、カタログなどの文献を完成させます。学内展示などで場数を踏みつつブラッシュアップを計ります。昨年度は実際に研修旅行で、公式野外展示(別府の廃ビルでの展示で4日で200人を集客)を行い、文献化されたカタログと共に集大成となりました。

 今年度からは、主担当のよしだ教授に加え、芸術学概論・芸術学演習⑵共に、企画広報が専門となる金島准教授※を新たに指導教員に迎え、更なる深化を狙います。22021、2022年度の講評会では美術批評を専門とする山本講師が参加しました。複数教員が関わることでスケープの基本精神である領域横断的な教育、立体的な専門性の実践教育の強化を遂げました。
「現代美術領域ー理論と制作」「現代美術領域ーキュレーション」の新領域を一年次グループワーク、二年次公開展示、三年ゼミ、卒業制作、大学院へと、専門領域を繋げていける授業構成になっています。

 芸術学概論 (学部一年次)、芸術学演習 (2) (学部二年次)の各学年に据えられたこれらの現代美術領域制作-企画の指導を受けられる新しい専門領域の必修授業は、本学芸術学専攻の授業として今まであった教職のための絵画や彫塑、工芸などの基礎実習(これらは現在も持続して行なっています)等とは位相を違えた、三年生以降の学生個々の専門領域探求に繋がる新しい芸術学の両翼の一端を担うメイン授業のひとつです。

三年次

 3年生では学生が個々に買い物をしそれについてリサーチするお買い物ゼミでは菊池教授、山本講師による論文の基礎強化指導が行われます。後期のゼミ展示ではよしだ教授、金島准教授による企画展示指導で1〜3年を通した最後の横断的学習が完成します。

 3年生以降では同時に研究室制度が導入されました。学生個々の専門領域に従い4つの希望研究室に分かれて所属し、卒業までの各々の研究や制作を探求していきます。

四年次

 4年生では専門領域の研究を進めますが、一昨年より実技や企画での卒業単位習得が可能になりました。既に、一昨年から始まった「現代美術領域ー制作と理論」のプログラムで指導を受けた実技系学生には、学外でのアーティストインレジデンスに参加した現代美術作品で卒業単位が認められ、大学院へ 合格しました(当該学生は今年度5月にはNPOギャラリー-アートグミによる卒展セレクションで得票数一位となり、サポート作家にも選ばれています)。また下級生においても、実技専攻院生も混じった大学選抜の海外交換留学生に、学部二年次で実技作品において選ばれ、ベルギーに短期留学を果たした学生も出て、確実な効果を数年であげています。


 スケープ公式ウェブサイト(www.scape2021com)では各教員の実際の授業が映像でご覧になれます。またこれら二つの新領域「現代美術領域ー制作と理論」「現代美術領域ーキュレーション」は、大学院でも2023年度より授業を開設しました。

 現代の美術市場の一線において、形式を多岐に渡って表現する作家が多くをしめています。また世界レベルで行われる学会では通史のスタイルを基盤としない研究が盛んです。
 そのような時代の要請もあり、20 年ほど前から、形式に拘らず表現できる専攻ないしコースの設立が各大学で相次いでいます。その意味では本学においてはいち早く、芸術学専攻が時代を反映した受け皿として体制改変を行いました。この改革によって、視覚文化研究などの研究だけでなく、形式を超えたコンテンポラリーアートワークや企画でも卒業単位を取れる唯一の専攻となりました。

 このように、芸術学専攻 __SCAPe (スケープ)では、理論と実践の横断的なプログラム導入を基本に、発想力の具現化に 重きを置いた多形式制作の導入、市場の国際化に沿った美術批評や企画、制作理論の指導、一線の研究者を押し出すグローバルスタンダードな視覚文化研究の教育で、現代の美術界への 即戦力的人材輩出を目指します。

以上が学部のカリキュラム紹介となります。
次に、新任の先生を中心に、スケープ教員を紹介します。


教員

 今年度から新任となる金島隆弘(かねしまたかひろ)准教授

「現代美術領域ーキュレーション」が専門領域となります。金島准教授は現代美術業界において実践的研究に取り組むプロデューサーでもあります。代表的な仕事に「アートフェア東京」(エグゼクティブ・ディレクター)「Art Collaboration Kyoto (ACK)」(プログラム・ディレクター)などの他、国際陶磁器展美濃、東京ミッドタウンアワード、テラダアートアワードなどの審査員も数多くこなしており、現場との乖離がない即戦力養成、教育指導を具体的に授業プログラムに取り入れることが可能になりました。大学院においても新しく「現代美術領域ーキュレーション」授業が開設され、グループでの実践と座学の授業スタイルの中庸を成す構成で行われます。今年度の三年ゼミでは、現場のパイプを活かし「東京現代」などのアートフェア訪問を含む実地指導も予定されています。

山本浩貴講師

 この春に著書を刊行したばかりの現代美術批評家である、スケープ最若手の山本講師が生きた批評を教示します。芸術学スケープのもうひとつの基盤となる美学、視覚文化研究の授業においては美術手帖を中心に活躍する現役一線の情報を生かした専門の近代美術史、美学の座学講義のほか、三年のゼミなどではディスカッションを軸に据えた授業体制で、自由度の高い指導を展開します。また横断的な授業体制の体現として、実技と理論領域の授業である演習 (2) などでも学内展最後の合評会で講評を行います。

よしだぎょうこ教授

 東京画廊+BTAPに在籍する現役の現代美術作家であり、文化庁新進芸術家海外派遣作家(2004、ニューヨーク)でもあり、ACCグランティー(2001、ニューヨークISCP)、インドトリエンナーレ日本代表作家(第11回、デリー、国際交流基金)でもある教授、よしだぎょうこの実績を背景に、実技領域において現場力の育成を目的に一年次の「芸術学概論」の現代美術作品をグループワークで制作するところから、大学院「現代美術領域制作と理論」まで、体系化して制作指導や理論指導を行います。各自の根元を明らかにするマインドマップで、思いつきでは無い自身から出た作品のタネを、具に起点と経緯をメモするユニークな指導法でコンセプトと表現の整合性を強固にし、短期間で作品の精度をあげ表現力を育てます。三年ゼミでは、実技制作と理論の整合性を学びながら展示や売買のイベントなどを通して現場力を育成します。

菊池裕子教授

 論文指導や英語教育の中心を担っているのは、海外の学会で長く発表し、ロンドン30年の教育経験がある実績を基にジェンダー理論やポストコロニアルについて視覚文化研究を教えている菊池裕子教授です。3年ゼミでは工芸の学生の展示を取り入れ、金沢21世紀美術館館長長谷川裕子氏を講評に招くなどの実践的な授業を行なっています。スケープの総括を務めます。

 このように、スケープでは一線で活動する教員が指導を行い、自由な発想において各自の独自性を充分に発揮できる横断的な教育を旨としています。

Profile
金沢美術工芸大学 美術科芸術学専攻 (SCAPe)
よしだぎょうこ
1996年多摩美術大学大学院絵画研究科修了。1999〜2004年 慶應義塾大学環境情報学部非常勤講師、2011年より金沢美術工芸大学教員、2021年より現代美術領域に新編成された芸術学専攻SCAPeに就任(2022年より教授〜現在に至る)。 東アジア、主に日本の原初的な美術構造を探り、東西文化の文脈の違いをテーマとして表現する。平面のみならず、写真、インスタレーション、パフォーマンス、立体など使用形式は多岐にわたるが、全て、絵画の領域作品として発表。 2001 年-2002 年 ACC (アジア交流基金)ロックフェラーフェローシップ授与をきっかけにニューヨーク在住。続けて2004 年-2005 年 文化庁の新進芸術家海外派遣を授与、共にISCP(インターナショナルスタジオ&キュレイトリアルプログラム)で、ニューヨーク滞在制作。1996〜2004年までなびす画廊、2001年〜現在まで東京画廊+BTAP専属所属作家。 「第 11 回インドトリエンナーレ」日本代表作家(2005年)他、「絵画の位相」(個展,ギャラリークラヌキ,大阪,2001年)、続いて、「今ここにある風景展」(静岡県立美術館,2002年)が毎日新聞「美術と批評」年間美術批評にてそれぞれ一位(2001,峯村俊明/2002,本江邦夫)。国内外にて個 展グループ展。 書籍に「GYOKO YOSHIDA 1993-2014 work & texts」1〜3(東京画廊、2014)、「ピンクの血」(六耀社、2001)他。 宣伝美術に、ノダマップ 第 3回公演『TABOO』(演出:野田秀樹/主演:唐沢寿明) 宣伝美 術 (ポスター、パンフレット、本、車内吊り他) テレビ番組「色は匂えど」タイトルバック(テレビ東京) 読売新聞 全国 日曜版(6〜7月計8回)挿絵 野田地図第10回公演『走れメルス』(演出:野田秀樹/主演:深津絵里・ 中村勘太郎) 宣伝美術 (ポスター、パンフレット、本、車内吊り他) など。 ディレクションワークとして、延岡さるくアートノミネータ(NPO 五ヶ瀬川流域ネットワーク〜平成 25 年) 、占冠 ARTCAMP アートディレクター(NPO 占冠村づくり観光協会〜平成 25 年迄)、「HAAG」アートディレクター (共同運営:平成28年〜+NPOザワカナ・〜平成30年まで、金沢ひがし茶屋街)、 「KINOURA MEETING」 主宰 (石川奥能登、〜現在に至る)、東海さるくアートノミネーター(NPO 五ヶ瀬川流域ネットワーク〜現在至)等。本学の学生のキャリア育成のための展示企画は40展を超える。
1996年多摩美術大学大学院絵画研究科修了。1999〜2004年 慶應義塾大学環境情報学部非常勤講師、2011年より金沢美術工芸大学教員、2021年より現代美術領域に新編成された芸術学専攻SCAPeに就任(2022年より教授〜現在に至る)。 東アジア、主に日本の原初的な美術構造を探り、東西文化の文脈の違いをテーマとして表現する。平面のみならず、写真、インスタレーション、パフォーマンス、立体など使用形式は多岐にわたるが、全て、絵画の領域作品として発表。 2001 年-2002 年 ACC (アジア交流基金)ロックフェラーフェローシップ授与をきっかけにニューヨーク在住。続けて2004 年-2005 年 文化庁の新進芸術家海外派遣を授与、共にISCP(インターナショナルスタジオ&キュレイトリアルプログラム)で、ニューヨーク滞在制作。1996〜2004年までなびす画廊、2001年〜現在まで東京画廊+BTAP専属所属作家。 「第 11 回インドトリエンナーレ」日本代表作家(2005年)他、「絵画の位相」(個展,ギャラリークラヌキ,大阪,2001年)、続いて、「今ここにある風景展」(静岡県立美術館,2002年)が毎日新聞「美術と批評」年間美術批評にてそれぞれ一位(2001,峯村俊明/2002,本江邦夫)。国内外にて個 展グループ展。 書籍に「GYOKO YOSHIDA 1993-2014 work & texts」1〜3(東京画廊、2014)、「ピンクの血」(六耀社、2001)他。 宣伝美術に、ノダマップ 第 3回公演『TABOO』(演出:野田秀樹/主演:唐沢寿明) 宣伝美 術 (ポスター、パンフレット、本、車内吊り他) テレビ番組「色は匂えど」タイトルバック(テレビ東京) 読売新聞 全国 日曜版(6〜7月計8回)挿絵 野田地図第10回公演『走れメルス』(演出:野田秀樹/主演:深津絵里・ 中村勘太郎) 宣伝美術 (ポスター、パンフレット、本、車内吊り他) など。 ディレクションワークとして、延岡さるくアートノミネータ(NPO 五ヶ瀬川流域ネットワーク〜平成 25 年) 、占冠 ARTCAMP アートディレクター(NPO 占冠村づくり観光協会〜平成 25 年迄)、「HAAG」アートディレクター (共同運営:平成28年〜+NPOザワカナ・〜平成30年まで、金沢ひがし茶屋街)、 「KINOURA MEETING」 主宰 (石川奥能登、〜現在に至る)、東海さるくアートノミネーター(NPO 五ヶ瀬川流域ネットワーク〜現在至)等。本学の学生のキャリア育成のための展示企画は40展を超える。