思考文化インタビュー
2024.09.09

Ryo Fujimotoインタビュー:生かし生かされ。金沢・能登・パレスチナ|ちびがっつ!

インタビュアー:ちびがっつ!
Share
インタビュアー:ちびがっつ!

アーツカウンシル金沢では本年度より新たに交流滞在支援が始まりました。市内の主催者が県外から表現者を招聘し、滞在と交流を通じて芸術文化活動を活性化していきます。今回はギャラリー&バーSosiがコーディネートを行い、本年の金沢ナイトミュージアムでも発表を予定するRyo Fujimotoさんの滞在が実現しました。インタビュアーはダンサーでRyo Fujimotoさんと旧友のちびがっつ!です。


金沢滞在中に声の基礎練習を良くやっていた犀川とRyo Fujimoto

ちびがっつ!より
アーツカウンシル金沢の交流滞在支援プログラムで2024年6月12日 – 6月25日に滞在したアーティストRyo Fujimotoにちびがっつ!が滞在中の出来事などをインタビューしました。
Ryo君とちびがっつは元々友達で、その出会いはちびがっつが過去に所属していた、京都を拠点に活動しているダンスカンパニーMuDAの公演 MuDA × Humanelectro「SPIRAL」でRyo君と共演したことがきっかけになっています。公演は2014年でした。ちょうど10年の時を経て、この場を借りてゆっくりと金沢、能登、パレスチナの話ができました。
今回のインタビューではRyo君の表現にまつわる話を中心にインタビューを行いました。
どうぞお読みくださいませ!

1. 金沢にきて感じたベルリンの風

CHIBIGUTS(以下G):まず自己紹介を軽くお願いします!

Ryo Fujimoto(以下R):Ryo Fujimotoです。サケビニスト / サウンドアーティストをやっています。今回はアーツカウンシル金沢で始まった交流滞在支援の第1弾のアーティストとして、アーティストインレジデンスCORNに滞在しています。

G:金沢は初めてなんですよね。金沢の印象はどうですか?

R:金沢はめっちゃ初めて! これね漫画※でも書こうと思ってるんだけど、ベルリンの風を感じた。

G:ベルリンの風!? Ryo君はベルリンにいたんだよね。ベルリンはどのくらいいたんですか?

R:5年ぐらい! 2011年から2015年。

G:ベルリンの風とは?

R:金沢駅の鼓門とか降りた瞬間に、ドームがあって、バっ! て空間が広がってるでしょ。それがなんかベルリンの中央駅みたいだったんだよね。降りた瞬間、ベルリンだった。プラス、都市部に自然がいっぱいあるじゃん。そして21世紀美術館という代表的な美術館があって、周辺にギャラリーがある。都市と自然のバランスがすごくいい感じ。あと「金沢市民芸術村」っていう地域の人に開かれたスペースがあってすごくめちゃくちゃいい場所だな、いい街だなと思いました。

G:ベルリンってそんな感じなんだ?

R:今はもう10年前だから、だいぶ変わってると思う。家賃も2.5倍ぐらいになってるし、ベルリンもフラットになったんじゃないかな。均一になった。東京とかローマとかパリとか都市っていっぱいあるけど、やっぱり人が集まるとその都市の特性というか、尖ったところって削られていくよね。

ベルリンのすごい良かったところって今の金沢みたいな感じで、外部からいろんな人がきて、新しいコミュニティが生まれて、繋がりができて、面白いイベントが作られていく。それで誰かが空いてるところを借りて新しいスペースを作ったり……っていうのがベルリンでは90年代の壁が崩壊した後から続いてた。僕が住んでいた頃にはまだその歴史があって、ベルリンがホットな街ということで、ニューヨークとかからも本当にいろんな人たちが来ていて、だからすごく面白いものが生まれていた。

それが今はやっぱり家賃が上がっちゃったから、すでに受け入れられている人しか住めなくなっちゃうし、お金を稼げる人しか住めなくなっちゃった。お金がなくても生活できる街だったから、アーティストの町って言われてた。だから今、金沢にはそういう風を感じるなって思います。

あと金沢ってハードとソフトが両方あって、ハードの面ではやっぱり21世紀美術館というでっかい箱があって、さらに街の景観や城下町や用水路もあって、街並みも美しい。ご飯も美味しい。人も親切。

そのハードのところがまず観光としては最高だし、それにくわえてソフトが充実していってるって感じ。もっと人々が繋がっていくような感じで。だからすごく素晴らしい。本当に本当に素晴らしいと思う。めっちゃいい作物が育つ土壌みたいな感じがする。とても良いインスピレーションがもらえてる。めっちゃいい場所。

2. 人に会うこと、話すこと

G:今回の滞在では何をしましたか?

R:まずは人に会いまくりました。あとインタビューが多かったかもしれない、人に対して。

G:どういうことを聞いた?

R:初めは街のフィールドレコーディングをさせてもらおうと思ってた。金沢の音の風景を録音しようと思ってたんだけど、何かそれよりハードの面よりソフトの、この素晴らしいところにはどんな人が住んでるんだっていうところに興味が湧いて、それでアーツカウンシル金沢のアーティストページがあるじゃない? そこからお会いしたい人をピックアップして、実際にお会いしてお話を聞いた。

G:大体何人ぐらい?

R:インタビュー形式では松本一哉さんと、なかむらくるみさん、金沢美術工芸大学の金保洋さん、NPO用水の宮下幸大さん。宮下さんはズームやねんけど。インタビュー形式以外でも、会った人だけで言うと本当にたくさん人に会った。有難いことに。

G:どういうインタビューをしましたか?

R:例えば、どういうことをされてますか? とか、どういうコンセプトで作ってますか? それで今どういうことに興味がありますか? そこから広がって、一人2〜3時間ぐらい。

インタビューというか、お話。なんか本当に多岐にわたること。何やってますかどういう作家なんですかというより、何に興味があって、それで生きる上でどういうことを大事にしてますか。そういう考え方の交換みたいな。

そういう話から広がって、こういうことを大事にして、僕は声の身体性って言葉を使うんやけど、それわかりますみたいになったり……そういう交流。本当に多岐にわたる話ができたよ。

G:ちなみにRyo君の今の興味・関心は?

R:もう、一言で言えば、「生かし生かされ」かな。

興味っていうより、今後やっていきたいことかもしれない。生かし生かされ、みたいな、与え与えられ、みたいな。そのために今、自分が何ができるのかに興味がある。あと、根底の興味っていうのは、声を極めること。

声って、肉体であり、自然やから、肉体の声になったら僕自身も自然の一部になれる。つまり山、川、海とかのエネルギーやバイブレーションと同じようになれるんじゃないかっていう想像のもと、声を着実に積み重ねてる。

でも、それを自然のままにするんじゃなくて、そこから得た真理みたいなものを還元したい。還元して喜んでもらいたい。自己満足かもしれんけど、喜んでもらって喜んでる顔を見て僕もニヤニヤしたい。それって与え与えられ、だと思う。ギブの精神に今一番興味がある。一言で言えば成長・ギブの循環に興味があるのかもしれない。

3. Sosi、能登、パレスチナを通じて考えた「どのように生きたいか」

G:具体的な滞在の話では、ギャラリー&バーSosiの公開リハーサルLiveはどうでしたか?

R:めっちゃ良かった。まずSosiっていう空間がめっちゃ良かった。人と人との距離が近い感じ。SosiのJunさんがいろんなところにアンテナを張ってるし、彼自身の良い部分がSosiに還元されていて、とっても良かった。だからこれからもSosiで何かやらせてもらいたいなって思ってる。空間がめちゃくちゃ好き。ぜひ弾き語りをライブ空間でやらせてもらいたい。

G:一緒に行った能登のことも聞いていい?

R:昨日ずっと考えてたんやけど、美しすぎる景観があるのに悲しい現実がある、コントラストがすごい。放っておかれてしまってる現実と、この美しすぎる空気、住みやすいというか、深呼吸できるような、ゆったりとしたその空気とのコントラストがすごすぎて、だから余計に悲しくなる。僕の中では。

「何ができるんかな?」っていうのは率直に思った。9月の金沢ナイトミュージアムの後にも、もしかしたら行くかもしれないから、今からちょっと能登の人のためのライブセット、弾き語りのセットを考えようかなと思ってる。

もちろんそれって自己満足でしかない。今回は本当に全然お話も聞けなかったし。でも、そこってめちゃくちゃ難しい。以前、山ごもりの生活をしていて、その時もすごく考えてたんだけど、自分の作品を見せるってやっぱ暴力になり得る。一歩間違えたら、「余計なお世話」になってしまう。でも、それを考えちゃうと、動けない。動かないってことは、結局、何にもならないっていうのがある。

だからそのリスクを引きうけながら、私は今から暴力成分が含まれた表現を彼らに見せるというリスクを背負いながら、想像力で補って、どういうものが、どういう歌が今、彼らにとって必要なんだろうかっていうことは考えられる。

それが僕は寄り添うってことなのかなと思ってる。彼らのことを想像して、自分が今ここで制作でも何でも、考えることや寄り添うことで、寄り添ったものをここだけに終わらせずちゃんと渡していくっていうのが、僕は寄り添うってことだと思ってる。

もし僕が200億も300億も持ってたら、ポンって渡せるわけ。だけど僕は持ってないから。いま僕が渡せるものって音楽とか芸術とかそれしかないからさ。

もちろんマンパワーでボランティアはいけるから、それも行くし、プラス自分の本当に人生を捧げているもの、命をかけてるものをお渡しする、っていうのが僕にとってできることだと思うかな。

G:今回、滞在中に金沢駅前で、パレスチナのスタンディングにも参加した?

R:勇気をもらえた。逆にね。やっぱりね、今の現状に対して無力すぎるじゃん。でも無言のスタンディング。さっきの話に戻るけど行動することに意味がある。

例えば、”殺すな”とかさ。言葉は結構きつい。プラカードに描かれた言葉。僕も読みたくない言葉もいっぱいあるのよ。現実を見ろっていう話やねんけど、でもそれって暴力になるじゃん。強い言葉というか暴力の可能性がある。

でも、対話のきっかけって、ネットよりもリアルのこの肉体を通した動きの方がある。ちゃんと考える、ちゃんと生きていくことに対しての問いであり、答えだと思ってる。勿論、答えはあらゆるところにあると思うけど、ちゃんと「私は生きていくぞ」っていうその主張というか証明、声明みたいな。

G:「私ちゃんと生きていきます」ってことね。

R:立場が変わったら見方も変わるから、何が正しいのかはわからんけど、人間としてもがき続けながら、悩み続けながら、問い続けながら生きていく様が、今の時代に非常に必要なものだと思っている。

だからちゃんと話し合う、問い続けるっていうのが今の時代めっちゃ大事かなと思う。

AIとか発達してすぐ答えがもらえるから、自分の知識+知恵+肌で問い続けることがめっちゃ大事。

その問い続けるための提示としての作品でもあると思う。つまり、この作品を見てどう思いましたか? っていう問いを生み出すための作品ってのもあってもいいと思うし、正解はわからんが、いま現在おこわれている悲惨な現実に対して問い続けて、私はじゃあどのように生きたいのか。

G:たしかに「どのように生きたいのか」ってめっちゃ大事かも。

R:自分の心に嘘をついて生きるのか? それとも? もちろん自分が大事にしてることって人それぞれ違うからさ。でも、大事なのは、自分がどのように生きたいのかっていうこと。自分の心って自分しかわからんから、それが自己満足って言われても、いや私はこのように生きたいんですって誇りを持って言える。

プライドじゃなくて、いや私はこのように生きたいんです。だから、今こういうことをやってます。って子供にもちゃんと言える。大人の話やからじゃなくて、子供にも誰にでも言えるようなスタンスっていうのが今の時代、問われてると思う。

問い続けて、考え続けること。悩んでもがいててしんどいけど、今のその泥臭さ。めっちゃアナログフィールな感じ。デジタルやったらすぐAIがこうしてくださいって言うやん。こういうアイディアがあります、こうすると人々は動きます、とか言うけど、実際のことわからんやん。

このアナログフィールな、不透明なところで考え続けて、それで対話して、また新しいこっちの方がいいかもしれんなっていう道を模索するって、すごい大事だと思う。そしてそれが金沢では、なんかできそうな気がする。たとえばクリエイティブな話であっても、金沢にはいろんなコミュニティがあるから、そういうことも考えられるかなと。

4. ナイトミュージアムに向けて

G:それでは9月のナイトミュージアムに向けて、ひとこと、お願いします!

R:まずは自分が良いと思うものを届けたいって感じかな。そして分かち合いたい。そして繋がりたい。与え与えられたいって感じ。あと嘘をつきたくない。自分の興味関心とか自分の今ちゃんと感じてるものに対して、嘘をつかない。

その上でやっぱワクワクしたい。みんなでワクワクしたい。みんなでいい意味で豊かになりたい。物質的な豊かさも大事やけど、みんなで面白くて豊かになれるようなものができたらなと思う。

たとえば市役所があるじゃん、芸術村があるじゃん、ギャラリーがあるじゃん、豆腐屋さんのおっちゃんがいるじゃん、能登の人もいるじゃん、そういうみんなで、豊かになりたいなと思う。これはベルリンから帰ってきた時、すごく変わったと思う。

それまでは別に自分一人で良い思いしてたら良いと思ってた。けど、何かそれは違うなと思った。もちろんそういうエゴはある、それが完全に消えたわけでは絶対なくて、こいつ(エゴ)は絶対おるのよ!

だけどそれをちゃんと、いやそれどうなんって、ほんまにそう思う?って言えるような自分ってやっぱり大事になってくると思うし、そうなると関わってるみんなが幸せになれるような感じができたらめっちゃ最高なんじゃないかって。

それが広がって社会のためとか次の世代の子供たちのためになったらさ、もうええやんそれで。それが持続可能な世界だと思う。みんなで繋がって個々がちゃんと自分のしたいこと、ちゃんと自分の生き方に沿って、バラバラだけど揃ってるみたいな。パフォーマンスだけじゃなくて社会として、そのコミュニティとしてバラバラだけどみんな幸せで豊かで、一緒にやろうぜ! みたいなタイミングもあって、ちゃんと自然なバイブスで繋がれてるみたいな。

何かやらなあかんということじゃなくてさ、その自然なバイブスの水路みたいなものがあれば、どんなことが起きても大丈夫だと思う。

アーツカウンシルのディレクターの金谷さんにも、そういうメールを送ったんだよね。「私たちに関係しているかどうか、リスペクトを念頭に置いて、自分の範囲を広げながら、音楽・芸術でちゃんと還元していくような動きができたらいいなと思った」ってメールした。やっぱ還元したいんやと思う。ギブやね。ギブしてる方が楽しいって。ギブしてる方が多分幸せだと思う僕は。そんな感じがする。

G:ありがっつございました!

R:こちらこそ!僕も整理できてよかった。ちびがっつ!じゃないとこういうこと話せなかったわ。

アーツカウンシル金沢ディレクター、齋藤恵汰と能登にて
Information
※漫画"LINK-KANAZAWA"
アーティストRyo Fujimotoが金沢滞在の日々を描いた漫画作品"LINK-KANAZAWA"を公開いたします。
インタビューで語られた金沢での出会いや経験が語られる全43Pの描き下ろしです。お楽しみください。
脚本 Ryo Fujimoto / 漫画 電気こうたろう
Information
Ryo Fujimoto × Takeshi Nishimoto Workshop & Concert 2024 in Kanazawa
これまで世界10カ国40都市にて公演を展開し、世界中で活動している Ryo Fujimoto、ギタリストとして世界中で脚光を浴び続けているTakeshi Nishimoto。
2人によるプレミアムコンサートとワークショップを開催します。
Profile
インタビュアー
ちびがっつ!
大阪成蹊大学芸術学部美術学科現代美術コース卒業。2005年よりストリートダンスを始め、数々の大会に出場(B-BOY PARK2009 solo battle準優勝)。「MuDA」、「山/完全版」などを経て現在はソロでダンサーや美術作家として活動中。アートプロジェクト「気流部」所属。太陽の人。全世界を「アートとガッツで大爆笑!」させることが目標。
大阪成蹊大学芸術学部美術学科現代美術コース卒業。2005年よりストリートダンスを始め、数々の大会に出場(B-BOY PARK2009 solo battle準優勝)。「MuDA」、「山/完全版」などを経て現在はソロでダンサーや美術作家として活動中。アートプロジェクト「気流部」所属。太陽の人。全世界を「アートとガッツで大爆笑!」させることが目標。